懐かしく思うこと。
最近、ずーっと昔の記憶を思い返すことがある。
それは、良い思い出でもあり、恥ずかしくもあり、妬ましくもあり、結局懐かしい思い出たちだ。
私は、昔好きだった人を思い出す。それは時々だし、決して今に続くものでは無いのだけど、何だか妙にトキめいてしまう。みぞおちのあたりから喉元に沸き上がるような高揚と、吐き気が重なったような感覚がして、疲れてしまうだけの感情だけど。何だかそれすらも懐かしい。あなたのあの声や笑顔、何気ない話題に、素っ気ない態度全て。悔しいくらいに揺さぶられていた自分が、可愛くもある。
一方、今はどうかと、考えなくもない。一回り上の上司に、少し惚れてしまっている僕。職場が変わり離れてしまう時の、異様な悲しさと切なさと、悔しさ。あの人の記憶に、自分が残ることはあるだろうかと、帰り道泣き喚いたあの日。そんな、ついこの間の事も、既に懐かしいこの頃。
あぁ、何でも、どれでもいいんだな。懐かしいって感覚が、自分の中の隙間を埋めるから。
だから今日も、それを手放せないんだろう。
愛言葉。
言葉ってホントに難しいって、何度痛感しただろう。
僕はよく、伝えられない言葉ばかりを募らせて楽しんでいる。だから、少しひねくれてるし、落ち着きがあるって言われる。でも、それはただ言葉に出来るほどの自信と、勇気が、私の中に足りてないからでしかないんだと、心から思う。
今までの後悔ってやつを思い出す度に、いつも溢れるのは君が言った言葉で、あなたの中から出た単語だったから。より深く刺さり、自分の中の後ろめたさと相まって、締め付けて離さない縄の様になっている。
きっと、愛だってそうだ。この短いようで長い様な人生で、何度か感じたささやかなトキメキ。胸を締め付けるとはよく言ったもので、この苦しさを端的かつ鮮明に表しているのだろう。
あぁ、それにしても、よく似ている。
愛言葉。哀言葉。あい言葉。
乾いてしまったこの心に、深く染み込んでいく感覚は、いつも苦しさと言葉が隣に居る。
だから、言葉ってきっとそういうモノなんだろう。これから、そうやって言葉にするんだろう。
すれ違い。
一番辛いのは、自分とのすれ違いだと、常々思う。
僕が、どれだけ切望しようとも、努力しようとも、奥歯に力を入れようとも、背伸びしようとも、自分の思う様な、目指す様な人間には到底なれそうにない。それが、周知の事実であっても、自分の中だけの葛藤であっても、人と人がすれ違ってしまう何十倍も解決が難しい。その上、ただならぬ精神力が必要とあれば、それはもう誰も挑む事の出来ないパンドラの箱の様なモノだろう。
だから、私は、なるべく自分を過小に評価し、とっぴな行動を避け、慎ましさを求める。
でも、それは同時に、凄く苦しい事でもある。自分を押し殺すこと程苦しいことも、また、比べられないモノであるから。
だから、あなたも道に迷ってしまう。路地の、角を曲がった、塀を超えた、細い小道の中の隣で。
今日は戦った。自分の望む自分と。
明日は休もうかな。好きな事を、好きなだけ、好きなモノを、少しだけ。
すれ違わない程度の、満足を抱えて。
子供のように。
子供のように、なんて言うけど、一体いつから子供じゃなくなったんだろう。
じゃあ、大人かって聞かれると、返答にも困るけど。子供って言い張れるほど、素直でも一直線でもなく、わがままで偏屈でもないと思う。
君はまだ、若いね。えっ、まだ19歳だったの?どちらが嬉しいとか、悔しいとかは無くて、ただただそれが関係あるのねって飽和した気持ちになる。どうでもいい。あなたからの、その、感嘆。
だけど私は、私の中で、必ず子供のような心を忘れちゃダメだと決めている。何かを間違った時に思い直せる素直さも、挫けたことにすら気づかない鈍感さも、抵抗なく踏み出せる一歩も、無駄にすら感じない日々の時間の流れも、ふと寂しくなる事なんか無い無知な自分を途切れさせないように。縋るって言葉が一番正しいのかもしれない。
ボクは今日も一日を過ごす。それは明日よりは手前で、昨日よりは半歩進んだどこかの時間。
子供のように。ただ、ありのままに、歳をとる。
カーテン。
薄い、カーテンを透かして見る外の世界は、なんだかいつも綺麗だった。
私が住む家は、こじんまりとだがベランダがあった。ベランダは、大して整備もしていない上、昨日の雨で曖昧に濡れている。朝晩と涼しくなってきたこの頃は、日が落ちてから網戸に薄いカーテンを掛けて涼むのが、一日の癒しだった。
今日は道が明るく見える。それが、通り過ぎる車のせいなのか、街灯のせいなのか、久々に晴々している僕の心のせいなのかは分からないが、時計の針だけは明確に示しているのだろうと、思う。
綺麗だな。気持ち悪い。眠いなぁ。人が沢山だ。どこ行くんだろ。虫多いな。わ、刺された。少し寒い。芯に沁みる。柿が熟れてる。煩いなあ。
幾つか言葉が浮かんで、跳ねて、去っていく過程を楽しみながら、今日は外を眺めていた。
明日は、どうしようか。
とり敢えず、カーテンは、開けておこうか。