ゆずの香り。
最近は、鼻が詰まっている。冬の花粉だかなんだか知らないが常に右か左かの鼻がムズムズして、乾燥なんてものまで押し寄せてきて、窒息気味の毎日だ。しかも、感染病なんてものまで流行っていては、鼻が効かないだなんて大ぴろげには言えっこない。それがさも、大地を歩く人間の数が億を超えるのが当然かのように、コンテンツを消費して一日を終えることに違和感を覚えないのが当然かのように、普通のことになりつつある日常の一つであっても何も問題が無いのだ。
香りなんてものに取り憑かれて、分かってもいない匂いを愛想良く笑いながら褒め称える君は、私にとって宝物だ。柑橘系の強く甘い臭いも、丸まった靴下からする強く漂う匂いも、どちらも比べようがなく好きだ。
今日も疲れた。ゆずの香りに包まれて、こんな文章を書くぐらいには、疲れている。
大空。
航空機に乗って、あの高い空を泳いでみたい。その大きな雲を乗り越えて、世界を渡ってみたい。そんな願望がいつからがずっと疼いている。大空なんかに飛ぶ前に、もっとする事があるだろう。そう言う君に何度も会った。そう言う自分に何度も挫けた。だけど、それでも、羽ばたいて、傍に寄って、近ずいて、空に行く。
芯から冷える寒さの中でも、線上に広がる熱の道でも、繋がってる高い空では、自分を見失っても大丈夫なんだって、そろそろ気づいた。だって、もう大人だから。そろそろ大人になるから。心の中だけでも、大空に、いつでも、飛び立てるから。
隣に誰もいなくても、とても楽しい空がある。
みんなに囲まれた、とても広い大空があるさ。
寂しさ。
息苦しく感じるようになった平穏も、忙しく過ぎる生活に疲れた時も、相変わらず隣にいるのはいつも君だった。足も、手も、腕も、腰も、首も、肩も、心臓も疲れてる。重たくのしかかったそのものに、ため息だけが出る。
暖かい世界で生きているはずなのに、時々全てが冷たく見えて、声も届かず、足音も閉ざされ、曇り空の中だけで一生を考えたりする。そしたら多分憂鬱で、とても寂しい気分だろう。
こんな時世で何ができるかって、くよくよ考えてしまうけれど、イルカが超音波で会話するように、馬鹿が風邪を引かないように、超能力的な何かとかで、頑張って生きてみようと思う。私の中の寂しさは、あなたがいれば変わるから。胸のときめきと重なるだろうから。
雪を待つ。
もう少しだけ。あと一年、二年、三年と待ち続けた毎日が、やっと終わるかもしれない。大海原で海賊船に出会うより、学校で宇宙人と会話するより、珍しいものが見れるかもしれない。雪が降ったのは何年前の事だっただろう。友達と風邪をひくまで転げ回り、雪だるまを転がして作った記憶が、微かな熱と共に残っている。
本を開けば、テレビをつければ、スマホを開けば、新聞を読めば、今日はどこかで降っている。まるで空き家を荒らす盗人のように、ウインカーを出さない運転手のように、あなたの生活を脅かしているかもしれない。だけど、私は好きだ。滅多に降らない君は、懐かしい思い出を呼び起こし、目を細めてくれる。自分の肩幅を取り戻し、堂々とできる日まで。雪を待つ。
イルミネーション。
街中にあかりが灯ると、目の中の汗が反射して仕方がない。マスクから漏れ出た水蒸気なのか、心からあふれ出た残り汁なのか、全くもって不可解なもの。最近はもう罪悪感で胸が傷んでも、自覚できないから、イルミネーションをみると思い出す。そんな夜の日。
一室でぬくぬくとしていると分からないけれど、思い切って湯を沸かすように身体をほ照らしたり、倉庫の角のダンボールなんかに隠れていたら、声が聞こえる。喜んでたり、はしゃいでたり、つんけんしていたり。自分とは程遠いあなたたちが羨ましくて、細い目をつくる。私もイルミネーションをみたい。空が晴れていて、星が隠れていて、月が顔をしかめて、君が笑ってる。そんな中で生きていたい。
そんな中なら、ちゃんと光を写せるだろうから。