何となく最後だと思った。
彼と会うのはいつも不定期で、長期間会わない事も普通だった。それでも、今日は違った。出さないようにしているけど、顔も声もいつも通りだけど距離を感じた。
「まだ眠くないのかい?」
彼が囁く。私は知ってる、今寝てしまうとあなたは去ってしまう事を。だから、
「まだ、眠くないの。ねぇ、私が寝るのを待ってよ」
「待つよ」
彼はそう言いながら、私の頭を撫でる。
寝てはいけないと思うのに、私の目は段々と閉じていくー
お願いだから、まだ眠らないでーー
目が覚めると彼は居なかった。もう、彼が居た形跡は何も残ってない…
お題「眠りにつく前に」
囁く声がずっと付きまとう
私を監視している声
ヒソヒソ ヒソヒソ
あのお店に居たよね、いやいやあそこにも居たわよ
絶え間ない監視の声に頭がおかしくなる
うるさい うるさい
私を見るな、何で私が我慢しないといけないんだ
おかしい おかしい
気狂いだと言われたが、狂っているのはみんなだ
リセットしないと、リセット…
赤い点滅、鳴り響くサイレン
灰色の壁の中で私を犯罪者だと言う
おかしな世界、私は正常よ
私の声は届かない
お題「声が聞こえる」
ピコン
スマホから通知音がして、ロック画面をみる
あの人からのメッセージだ…
見るのが怖くて、開けない
だって答えが分かってるから、もうやり直すことはできないって
あの人はもう次があるのだから、私にはもうないのに。
でも、踏ん切りがついたわ
速報
女性が交際関係に合った相手を刃物で刺して女性自身も刃物で刺した。目撃情報から、無理心中を図った模様ー
「結婚が決まりました。さよなら」
お題「開けないLINE」
街中を歩いていた時に、不意に香った匂い
香りの先を振り返ってしまったけど、知らない人が居るだけだった。
あの人が居るわけないのに、未だに憶えてるあの人の香水の匂い
優しくて私を受け止めてくれたあの人はもう居ない。あの人と一緒になるって、家族に報告したら、反対された。
「あなたは治療を受けないといけないの」
訳の分からない事を言って、私を病院に連れて行った。そうして、あの人と会えなくなってもう1年経つ。家族からは、あの人はもう居ないとしか言われてない。そんなの信じられるはずがないから、わたしは探してるの。
あの人とまた会える事を…
ある証言
「あの娘は都会に就職して向こうで結婚を決めた方と出会ったの。でも、その方は不慮の事故であの娘の目の前で…… それからです。あの娘の中にあの人が現れたのは、私たちで買った覚えのない香水を付けて、一度お会いしたあの人と同じ振る舞いをするようになったんです… 」
お題「香水」
それが目に入ったのは偶然だったのだろうか
就職で暮らすことになったのは、遠い親戚が住んでいた家だった。まだ給料も高くない新卒には家賃を抑えられ職場に近い立地など勿体無いくらい好物件だった。さらに、家財道具等好きに使える事も決め手だった。
引越しで、荷解きも粗方終わり家の中を見回ることにした。そうして見回ると、壁の色が一部変わっている箇所を見つけた。階段の真下に位置する壁、まるで隠し部屋がありそうだなと叩いてみると、「カタン」と音がした。取手のない引き戸が隠されていた…
隠し部屋が本当にあった事に興奮しながら、中に入ってみると真っ先に目に入ったのは、表紙が掠れたノートだった。そして誘われるように私はそのノートを手に取り、表紙を捲っていた。
◯月※日
今日の日付と出来事を書く事を日記というらしい。早速今日から始めてみる。何を書けば良いのか分からないけど、今日はみんなニコニコしてた。素晴らしい日が近づいてるらしい。 私も素晴らしい日を迎える事ができるのかな
◯月▽日
今日は出たらいけない日。ずっと部屋にいて退屈。何で出たらいけないんだろうか。
……そのノートは少女の日記であった。この隠し部屋の住人、まだ最初のページしか読んでいないけど、不穏な気がした。それでも捲る手は止まらず、私は日記を読み進めていた。
◎月☆日
日記に書く事ないなと思ってたら、この前貰った本に日記に自己紹介書いているお話があった。だから私も書いてみる。私の名前はつくも。今度の誕生日で14歳になる。私は特別だから、この家から出たら駄目らしい。この家には、お父さんとお母さんにお姉ちゃんがいるの。中々会えないけど、ご飯のお盆に本とか置いてくれるの。なんで、会ってくれないのかな。何が特別なんだろう?
◎月▽日
来週で14歳。今日は服が置いてあった。こんな綺麗な着物着れるの嬉しい。
◎月※日
今日は、塗り香水。良い匂いだな。
◎月××日
口紅だ。綺麗な真紅。大人みたいになれるかな。
……この少女の14歳が近づくと急に贈り物が増えている。そして、最後の日
☆月▽日
急に今からこの部屋を出るんだって。今まで置いてあった着物に香水、口紅に…全部身につけないと。お披露目をするんだって。みんなと会えるの楽しみと不安だな。
この日を最後に日記は書かれていなかった。彼女の名前を見ているとある事に気づいた。「つくも」は並び替えると「くもつ」になる。供物は、供えるもの。彼女は何に供えられたのだろうか?
「ガタッ」
音がした。音がした方を見ると、さっきまで開いていた筈の扉が閉まっている――
急いで開けようしたけど開かない。慌てていると背後から冷たい風が吹く。何かいる
「誰か助けて――」
声は誰にも聞こえず、何かが私を捕える、逃げられない――
後日談
ある会社の新入社員が会社に出社しなかった。さすがに1ヶ月以上連絡も取れず、その親とも連絡がつかない。不審に思い警察に通報した。届けてあった住所に警察官が訪ねると、そこは廃墟となった家があった。中に入ると、その新入社員のものと見られる荷物と、大量の血痕があった…
その事件が解決する事は無かった――
お題「私の日記帳」