満員電車に揺られて、身動きも取れない中シャッフルされた次の曲は、「悲愴」だった。耳がメロディを受け取った時、私の全身粟立った。
もう随分と遠くなった記憶の中にいる。
悲愴を弾くあの子の隣に私はいる。
放課後の音楽室は木漏れ日に照らされ、吹き込んでくる風がレースのカーテンを巻き上げた。私をピアノの音が包み、時間が止まればいいのにって思った。
できるなら今もあの場所に戻りたい。
こんな満員電車じゃなくて、あの穏やかでいられるあの空間に。もう何とも戦わなくていいあの時に戻れたらいいのに。
「言葉にするとチープになる」
とあの人は言った。ちょっとわかる気がした。
言葉はなくても、大切にしてくれてるのはわかったからそばにいたいと思った。
でも。少しずつ、それは積もり積もって、不安になってしまった。一度自覚をすると、信じられなくなった。
耐えきれずに、泣きながらそばを離れた。
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「君といると、自分の知ってる言葉じゃ足りなくて。どうしたら、この愛を伝えることができるのかそればかり考えてる」
と貴方は言った。耳の縁を赤くして、困ったように笑いながら。そんな貴方を私は可愛いと思った。
「別にみんなに伝えたいわけじゃないから、君にだけ伝われば良いんだ」
私の手を両手でキュッと握って、私を見つめる瞳はすごく必死だった。
「じゃあさ、一緒に探そうよ。2人だけの愛言葉」
そう私が言えば、貴方は満面の笑みを浮かべ私を勢いよく抱きしめた。
行かないでっていえば変わっていたのだろうか。
物分かりがいいフリをして、いまだに納得いってないから。素直に行かないでっていえたらいいのに。
どこまでも続く青い空
と、聞いて思い出すのは小学生の時のこと。
体育の授業で、校庭で私たち生徒は地面に体育座りをしていて、前で何か先生が話してる。私は、あたかも聞いてますよって風に先生の方を見てるけど、実際はその先生の後ろに広がる青い空を見ていた。
あの時間、好きだったな。
好きだったのにな。
最近の私といえば、電車やオフィスの窓とか街のビルの隙間の青空を見ては、久しぶりに見たなと思う。
青空かどうかを問わなければ、空はいつもそこにあるのに。目に入らないのだ。
春と秋がなんだか分からないうちにすぎて、衣替えできないままのクローゼットは夏服と冬服が混在してる。