結婚おめでとう。
あの時私が行かないでって言えていたら、未来は変わっていたのかな。
あなたの手を掴んで、泣きながら縋っていたら今あなたの隣には私がいたのかな。
可愛くない私だったけれど、そんな私を理解して支えてくれてありがとう。
これからは自分で歩いて行くから、最後に少しだけ目を閉じていて。
目を開けた時には笑って祝福するからさ。
今日の天気は何ですか?
少年が尋ねる。
一瞬意味がわからなかったが、少年を見た瞬間に理解した。
彼の焦点は虚空を彷徨っている。
周りに人がいない中で発された質問を答えるのは私しかいなかった。
晴れているよ。
そう答えると、少年はさらに質問を繰り返す。
雲はありますか。
すこしあるね。
問答を繰り返すうちに少年は語った。
昔は目が見えたが、徐々に見えなくなってしまったこと。
亡くなった母親との約束を。
『雲一つない青空の日に、家族でピクニックをしよう』
彼は、待ち続けているのだろう。
もう二度と揃わない家族と、もう二度と見ることのできないどこまでも続く青空を夢見て。
いつか晴れるといいな。
そんな言葉を呟きながら。
服にも思い出が宿っている。
毎年、衣替えの季節はそんな事を考える。
何時間も悩んで、デートへ行った黒のワンピース。
ラーメンの汁が飛んでしまった白のTシャツ。
あなたに褒めてもらったブルーのブラウス。
一つ一つを大切に畳みながら、仕舞っていく。
また来年、私と思い出を積み重ねてくれますように。
父が死んだ。
あまり実感がわかなかった。
今までだって年に2回会う程度だったから、何か大きな変化があるわけでもない。
葬式も終わり、遺品の整理をしていたときだった。
子供の頃に父と一緒になって集めていたコレクションが出てきた。
その瞬間、父との思い出が溢れ出してきた。
子供のような父の笑顔が、止め処なく浮かんでくる。
目からは涙が止まらなくなり、声が枯れるまで泣き続けた。
きっと誰かの死を受け入れるのはこういう時なのだろう。
女心と秋の空とはよく言ったものだ。
つい1週間前までは将来の事を嬉々として語っていた彼女から別れ話を切り出されるなんて。
理由を聞いても納得のいくことはなかった。
一方的に彼女は僕の元を去っていった。
空いた心を埋めるにはきっと時間がかかる。
それでもきっといつかまた巡り会える。
その時にはきっと澄み渡る青空を見て思い出すだろう。
秋晴れの天気は変わりやすいのだと。