『楽園』
他の誰かさんの賛同なんていらない。
いざ歌えや嗤えや舞い狂え!
地獄を面白おかしく生きて何が悪い。
人様の定義を他人様のあんたが決めるなよって、
もう聞こえやしないか。
ぬるくて甘くて暴力沙汰なんてなくて、法に守られて、そうして生きてきたあんたには毒が過ぎたかな。
ようこそ、我々の楽園へ。
骨の髄まで楽しんでいきなよ。
ただし用法用量にご注意ください?
気づいた頃には魂ごとあの世行きさ。
『風に乗って』
4月も終わりに差しかかった頃。
駐車場の片隅で、タンポポの丸い綿毛を見つけた。一輪だけひっそりと咲いていたみたい。春とは思えないくらいの日差しと梅雨のような雨が続き、いつしか綿毛のことは頭から消えていた。
洗濯物についている綿毛を見つけるまでは。
タオルと絡まった冠毛を取って手のひらに乗せる。
近くの公園に向けてふうっと息を吹きかけると、ふわふわゆらゆら風に揺れながら飛んでいった。
今年のゴールデンウィークは旅行でもしようか。
ふとそんなことを思いついた。
風の吹くまま気の向くまま。
『刹那』
今この瞬間を大事に生きたいと思う。
そう告げたら刹那的な人ねと君は笑うだろうか。
君と出会った奇跡があって
君と話してる内に恋に落ちて
今日結婚式を挙げようとしている。
二人きりの結婚式。式とも呼べないそれは、身分的にも金銭的にも両家に反対されている二人らしいものだった。
憐れに思ったのか仲のいい神父が来てくれる話だったが、聞きつけた家の者に捕まったのだろう。
自然豊かなこの小さな町にそぐわない豪勢な馬車が一台、教会に停まっているのが見えた。
ずっと監視がついているのは知っていた。
僕と違い、彼女は勘当されたわけじゃなかったから。
連れ戻されるのではないかと怯える体を抱きしめる。
お腹の子を潰さない程度に。
幸せになろうと言うと、君は眉を八の字にしたまま微笑んでみせた。
『生きる意味』
母親は知らない。父親と呼べる男はいま俺の上で殺された。
お前を売るしかないんだと、そう言った目は血走っていた。いつかの日のために隠し持っていたナイフは右手の中。その切っ先は上で寝そべる男の腹に刺さっていた。
でも死んだ理由はそれじゃない。
「大丈夫か」
男の脳天に一発弾を撃ち込んだのは目の前に立つ青年だ。
足で死体を転がして返り血にまみれた俺の体を抱き抱える。
「おまえ、行くとこあるか?」
「ない」
「お得意の孤児院はあるが、あそこに入れるにはもったいないか」
右手に張りついたままのナイフを見て青年が言う。
遠くない未来に師と呼ぶことになる青年。
このときはまだ、この人に捨てられないように生きなければと必死で青年の背中を掴むことしかできなかった。
『善悪』
良かれと思ってやったことで相手を傷つけた。
私にとってはその人を思ってやったことだった。
良いと言ったのに余計なお世話を焼かれた。
その人は、あなたを思ってやったのよと言った。
離れられない状況なら飲み込んで居続けるだろう。
時間が解決することもある。
同じ相手といて楽しいことはもちろんある。
時間が解決せず、積もりに積もって、距離を置き疎遠になることもある。
第三者がいて初めて知ることもある。
善悪とは。
人と接したときに生まれやすい。
自分一人で起こした悪はより一層心に残り続ける。
#ずいの雑記