どうせ言っても伝わらない、身近な人間にすら分かってもらえない。
結局は自分だけが傷付いて、ただ疲れるだけ。
なら、口を閉ざして適当に時間を潰す方が得じゃないか。
さもしい人間ばかりが跋扈する、こんな世界で。
誰とも繋がらず、誰かに愛されることも、誰かを愛することもなく。
暗く凍てついた深海を揺蕩う白い海月のように。
テーマ「届かぬ想い」
あの人は、何が好みだろうか?
物語を円滑に進めるための都合の良い現象。
「一目惚れ」なんて、恋に恋する女子の思い描いたフィクションだと思っていたのに。
いつもどんなものを食べてる?
香水はどこのブランド?
お気に入りのお店は?
お休みの日は何してる?
猫と犬、どっちが好き?
なのに最近は暇さえあれば、あの人のことばかり考えてしまう。
夢見る乙女の空想ならばご都合主義の連続で、あれよあれよと言う間に好き合う仲と成れるのだけれど。
現実はそんなに甘くはない。
甘酸っぱい溜息一つ、午後も仕事だと行きつけの食堂を出て直ぐの角で。
出会い頭、よく知るスーツ姿のあの人とぶつかった。
テーマ「神様へ」
降りしきる雨の中、小さな子供が全身ずぶ濡れになりながら、白茶けた地面を素手で掻いていた。
楽しげに声を上げるでもなく、その年頃の子供には似つかわしくない無表情で、ただひたすらに。
辺りを見回しても、親らしき人物は愚か人工建造物さえ見当たらない、辺鄙な山奥に子供が一人。
小さなその手では大して掘れないだろうに、擦り切れて血が滲み出した指先で、それでも子供は地面を掻き続けていた。
なくしものかい。
子供の隣にしゃがみ込んで尋ねた、聞きたいのはそんなことじゃないのに、私の口から出たのは全く気が利かない、野暮な言葉だけだった。
子供はこちらには目もくれずに手を動かし続けて、黙ったまま一度だけ大きく頷いた。
ぼくのおうち、みんな、もうないの。
『何処でも良かったんです、一人で生きられるなら、ね』
無感情な子供の声と、初めて会った時に君が発した言葉が何故だかダブって聞こえた。
テーマ「遠くの空へ」
これからって時だったのに、早すぎるよ……
子供も産まれて、G1も勝って、ホントだったら
あの日、あの満開の桜の下で
砂の上じゃなくて、舞い散る桜の中を
駆け抜けていた、筈なのに。
テーマ「言葉にできない」
人間ならば誰もが一度は「不老不死」を願うだろう。
特に他者よりも秀でた才がある訳でも、腐るほど金を持っている富裕層でもないのに、何故か望んでしまう。
死を忌避する、生物特有の本能だろうか。
それとも、飛躍的に進歩していく科学技術に心躍らせていたいからだろうか。
確かに死ぬのは怖いし、生前は謎とされてきた現象や不可能とされていた技術が、自分の死後に解明されたり実用化したら、と思うと。
……うん、死にたくないかな。
テーマ「誰よりも、ずっと」