降りしきる雨の中、小さな子供が全身ずぶ濡れになりながら、白茶けた地面を素手で掻いていた。
楽しげに声を上げるでもなく、その年頃の子供には似つかわしくない無表情で、ただひたすらに。
辺りを見回しても、親らしき人物は愚か人工建造物さえ見当たらない、辺鄙な山奥に子供が一人。
小さなその手では大して掘れないだろうに、擦り切れて血が滲み出した指先で、それでも子供は地面を掻き続けていた。
なくしものかい。
子供の隣にしゃがみ込んで尋ねた、聞きたいのはそんなことじゃないのに、私の口から出たのは全く気が利かない、野暮な言葉だけだった。
子供はこちらには目もくれずに手を動かし続けて、黙ったまま一度だけ大きく頷いた。
ぼくのおうち、みんな、もうないの。
『何処でも良かったんです、一人で生きられるなら、ね』
無感情な子供の声と、初めて会った時に君が発した言葉が何故だかダブって聞こえた。
テーマ「遠くの空へ」
4/12/2024, 4:53:17 PM