もうそろそろ冬物を仕舞っても大丈夫だろう。
明け方の寒さも和らいで、厚手のセーターよりも薄手のカーディガンの出番の方が多くなってきた。
出掛ける時もウールのコートでは、少し歩くだけで汗だくになってしまう。
臭いがこびりついて取れなくなってしまう前に、セーターやコートを洗ってしまおう。善は急げ、だ。
セーターやコートを丁寧に一枚ずつ畳んでから洗濯ネットに入れて、浴槽に水を貯めて。
お洒落着用の液体洗剤を少なめに入れた冷水の中に静かにセーターやコートの入った洗濯ネットを沈めていく。
何度か優しく押して、水面から出てこないように重し代わりに水の入った洗面器を洗濯ネットの上に乗せた。
テーマ「沈む夕日」
君の目は苦手だ。
心の中を見透かされるような、真っ直ぐで透明な黒。
死を連想させる、不吉な闇の色。
冷たい光を湛えた、君のその目が苦手だ。
それは出会った時から、現在に至るまで変わらない。
なのに、目を反らすことが出来ない。
君の目に映る、私はいったい何色だろうか。
テーマ「君の目を見つめると」
ちょっとは構ってくれても良いのではないかな?
日当たりの良いリビングの床に寝そべって寛いでいたというのに、掃除の邪魔だと君にソファの上へと追いやられた私。
なんて可哀想な私!食後のおやつも未だ貰えていない!
さっきから君に「おやつはまだ?」と目で訴えかけているのだが、私には一切目もくれず、あっちへ行ったりそっちへ行ったり、しゃがんだり立ったりと君は忙しなく動き回り。
今は私に背を向けて、何やら作業に没頭していた。
……こうなれば実力行使するのみっ。
こちらへ向けられた君の広い背中に、ソファの上から勢い良く飛び乗った。
思いっきり爪を立ててやりながら。
テーマ「それでいい」
本物のたこ焼きを焼き始めている最中に『ピンポーン』と家の呼び鈴が鳴り、聞こえはしないだろうに「はーいっ」と、君が声を上げながら小走りでリビングから出ていった。
私は友人と二人で、たこ焼きプレート一面に広がるたこ焼きの生地の上にネギやキャベツを散らして、恐らく穴が有るだろう位置にぶつ切りにしたタコを一つずつ落としていく。
「けっこう責任重大だな、この作業」
「たこ焼きなのにタコが入ってないヤツが出来ちゃうかもね〜」
「やっぱりタコ以外も何か入れてみる?」
「チョコとか「ダメー」もうっ、冗談通じないなぁ」
ふふふっ、と友人と笑い合いながら、ビール片手にウインナーたこ焼きをつまんでいると、リビングのドアがバーンッと開いた。
「これで全員揃ったよ!」
「遅れて申し訳ない」
仕事が終わってそのまま着たようで、仕立ての良いスーツの肩先や裾が少し濡れていた。
「しょうがないよ、仕事だったんでしょ?雨も降ってるし」
「みんな揃ったことだし、もう一回乾杯しようか」
遅れてきた友人にグラスを渡してビールを注ぐと、自分のグラスにも注ぎ足す。
四人全員、飲み物を持ったのを確認してから『かんぱーい』と声を揃え、カツンっとグラスを合わせた。
テーマ「大切なもの」
もうすぐ今日が終わってしまう!
なのに、面白い嘘が思いつかない。
生真面目な君を笑わせられるような嘘。
生真面目が服を着て歩いてあるような、そんな君でも大笑いしちゃうようなヤツ!
……だめだ、何にも思い浮かばない!
「自分のバカさ加減に腹が立つ……」
ぼそっと呟いたら、隣に座る君がコーヒーを吹き出した。
テーマ「エイプリルフール」