プール一杯のプリンを泳ぎながら食べたい、とか。
ずっと寝ていたい、ずっと遊んでいたい、とか。
億万長者に世界征服、君はムツゴロウ?
それともヒーロー?
「……なんの話?」
毎度のことながら趣旨の分からない話を突発的に喋ってくる君に、読んでいた雑誌から思わず目を離して聞き返した。
「子供の頃の夢だよ、有ったでしょ? 大きくなったら〜ってヤツ」
そう言って、へらりと君が笑う。
「……そんな昔のことなんて、覚えてませんよ」
好奇心の塊みたいなキラキラの君の瞳の圧に屈しないように、プイと顔を逸して手にした雑誌で完全に顔を覆った。
「嘘だあ」と床に寝転んでいた君が「よいしょっ」とダイナミックな匍匐前進でソファに這い上がると、膝の上に頭を乗っけてゴロりと転がる。
教えてよ、と上目遣いの君。
「だから、忘れましたって」
嘘、本当は覚えているけど、君には教えたくない。
だって絶対、君は笑うだろうから。
私も恥ずかしいし。
テーマ「過ぎ去った日々」
人の平均寿命、約788400時間。
もう何時間浪費した?
あと何時間残ってる?
課金したって増えない、こればっかりはズルが出来ない。
残り時間で何をしよう?
食う寝る遊ぶ、仕事に育児に副業、介護。
有意に、無為に、気ままに生きるか。
決定権は自分自身。
テーマ「お金より大事なもの」
今が、ずっと続けば良い。
隣で眠る君の胸に顔を埋めて、そう思った。
とくとくと鳴る心臓の音、お風呂上がりの君の匂い、背中に回った君の温かい掌。
全部独り占め、私だけのもの。
この幸せな今に、ずっと浸っていたい。
長くは続かないのが、幸せというものだから。
テーマ「月夜」
もうすぐ春が来るというのに編み物にハマってしまった君。
それはもう見事なハマり具合で、ここ数日、帰宅するなりリビングのソファに陣取ってカギ針をチクチクチクチク忙しなく動かしている。
何時もは私の定位置である君の隣、今は大きな毛糸玉共が我が物顔で転がっていて。
思わず、毛糸玉に嫉妬した。
テーマ「絆」
花屋の横を通った時、切り花コーナーにミモザを見つけた。
ずっと昔に母に贈ったことを思い出して一束購入する。
春の日だまりのような黄色に、仄かな甘い香り。
ミモザを渡した時の母の嬉しそうな笑顔が脳裏に過ぎった。
卒業と共に家を出てからは母とは殆ど会う機会もなく、広い家に一人住んでいた母。
最後に会ったのは、もう、ただの抜け殻となった母だった。
記憶の中の母よりもずっと小さな身体、パサついた白髪、胸の上で組まれた母の腕は枯れ枝のように細く。
爪には薄いピンクのマニキュアが塗られていた。
静かに眠る母の周りには、たくさんの花が供えられていた。
母は、きっと、幸せだったんだろう。
優しく香るミモザを胸に抱いて、春の柔らかな夕日を浴びながら家路に就いた。
テーマ「たまには」