しじま

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5/22/2023, 5:43:41 AM

 沢山の雨が降る。

いつもの静かで綺麗な小川は、茶色い濁流となって下流の街を飲み込んだ。

羊や馬が目の前を流されていく。

 助ける術はなく、ただ無事を祈るばかりだ。

天の神に、川の神に、水の神に。

 沢山の雨が降る、天の怒りの如く。

夜になっても雨は止まず、宵闇に染まった濁流は更に水位を上げた。

 足元の暖炉は水没し、祖父の作ったテーブルや椅子がプカりと浮き上がり、家の中をクルクルと回るように流れていく。

 雨はまだ、降り止まない。

家の柱がギイギイと嫌な音を立てはじめた。

 足の先が泥水に浸かる。
綺麗で冷たい川の水ではなく、かび臭くて生温いまとわりつくような泥水だった。

直後、祈りの声は濁流に沈んでいった。

 雨は七日間、降り続いた。

テーマ「透明な水」

5/20/2023, 3:09:23 PM

 受精卵をゲノム編集して、完璧な存在を人工子宮で生産し我が子として育てる。

そんなサイエンスフィクションが現実になったとしたら、どんな子を皆望むだろうか。

運動神経抜群、頭脳明晰、眉目秀麗、迦陵頻伽、国色天香。

ありとあらゆる先天性疾患も奇形無く、後天性疾患にもかからない。

 ハゲにはならないし、デブにもならない。

カラフルな金太郎飴が犇めく世界。

 そんな世界に生まれてみたいと、ちょっとだけ思った。

テーマ「理想のあなた」

5/19/2023, 4:52:34 PM

 夕陽に染まる静かなリビングを眺めてから、キッチンでひとり黙々と包丁を動かす。

 今日の夕飯は、ハンバーグ。

君の笑顔が見たいから、君の大好物を作る。

 輪切りにして面取りをしたニンジンのグラッセ、パリパリに焼かれたジャガイモのガレット。

 ハンバーグの中には、チーズをたっぷりと仕込んだ。
二つに割った時の君の顔を想像する。

 きっと、子供みたいに目をキラキラさせて喜び、口いっぱいに頬張って幸せそうな顔をするんだろうな。

 乾いた笑いが自然と口から漏れた。

玉ねぎを刻みすぎたかな、涙が止まらないよ。


 ねえ、約束したじゃん、ひとりにしないって。

ずっと一緒だっ、て。

ねえ、帰ってきて、帰ってきてよ。

 世界一大好きな君の「ただいま」を聞きたいよ。

テーマ「突然の別れ」

5/19/2023, 5:16:25 AM

 陳腐な言葉の羅列、使い回しのストーリー。

ボーイ・ミーツ・ガール。 反吐が出そう。

 未矯正の黒ずんだガチャ歯をチラつかせ、ネチャネチャ口を鳴らしながら愛を嘯く。

勘違い野郎共のお遊戯に札束が飛び交うイカれた世界。

 究極に不幸な他人が見たい、ハッピーエンドは許さない。

酷い目にあえ、惨たらしく死ね、最後は地球も爆発させろ。

 どうせみんなフィクションだ。

テーマ「恋物語」

5/17/2023, 4:44:25 PM

 季節外れの暑さだった昼間とは打って変わって、ひんやりとした心地良い夜風が開け放した窓から入ってくる。

 まだ五月、虫の音は聞こえてこない。

草木の奏でる微かな音が、しっとりとした細やかな風に乗って聞こえてくる。

 大昔の人はどんな音を聞いていただろうか。

ふと、そう思った。

 見渡す限りの山林原野に沢山の動物が居て、きっと今よりも賑やかだっただろう。

 夜風ももう少し冷たかったかもしれない、と肩にかけていたカーディガンに、さっと腕を通した。

テーマ「真夜中」

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