沢山の雨が降る。
いつもの静かで綺麗な小川は、茶色い濁流となって下流の街を飲み込んだ。
羊や馬が目の前を流されていく。
助ける術はなく、ただ無事を祈るばかりだ。
天の神に、川の神に、水の神に。
沢山の雨が降る、天の怒りの如く。
夜になっても雨は止まず、宵闇に染まった濁流は更に水位を上げた。
足元の暖炉は水没し、祖父の作ったテーブルや椅子がプカりと浮き上がり、家の中をクルクルと回るように流れていく。
雨はまだ、降り止まない。
家の柱がギイギイと嫌な音を立てはじめた。
足の先が泥水に浸かる。
綺麗で冷たい川の水ではなく、かび臭くて生温いまとわりつくような泥水だった。
直後、祈りの声は濁流に沈んでいった。
雨は七日間、降り続いた。
テーマ「透明な水」
5/22/2023, 5:43:41 AM