死は救済だ。
そう言えば、きっと何人かの人は賛同し、それよりも多くの人が非難するだろう。
或いは、意味を理解出来ずに明後日の方向へと言及するだろうか。
それとも、正義気取りで聴くに堪えない罵詈雑言を囃し立て、悦に浸るのだろうか。
死は救済だ。
皆が正しく意味を理解出来たならば、きっと全てがうまく回るだろう。
テーマ「桜散る」
もし、君に出会わなかったとしたら。
職場と自宅の往復、質素な一品飯と酒で腹を満たし、シャワーを浴びてちょっと夜更しして寝る。
遊びに誘ってくれるような友人も居ないから、休日は家から一歩も出ないだろうし、飯だってカップ麺一食で済ませてしまうだろう。
近所付き合いも無いから、もし孤独死しても数カ月は発見されないと思う。
誰にも顧みられず看取られずに死んでいったカワイソウな人として処理されて、似たような境遇の骨壷が犇めく、薄暗い納骨堂に詰められる。
想像しただけで背筋が冷えて頭が痛くなる。
クッションに顔を埋めて深呼吸、深呼吸。
少し落ち着いてから、また考える。
もし、君に出会わなかったとしたら。
きっと、こんなこと、思いもしなかっただろうに。
テーマ「ここではない、どこかで」
どこまでも高く青い空を見上げても、君は見えず、ただ一筋の白い煙だけが上がっていた。
人は死んだら、ドコヘ行くのだろう。
君が居なくなってから、否、居なくなると知った日から、毎日考えるようになった。
治療の甲斐もなく、日に日に弱っていく君の、蒼く細い手を優しく握ってやることしか出来ない日々の中。
現実逃避していたんだ、天国や極楽に居て綺麗な時の顔で、幸せそうに笑っている君を。
まだ生きているのに、生きていたのに。
みてやれなかった、みていられなかった。
後悔しか残らない最期だった。
冷たくなった君に謝ることしか出来なかった。
もう、聞こえないのに、ここには居ないのに。
死んだらドコに行くか、なんて知らない、どんなに考えたところで分からない。
伝えたいことがたくさん有ったのに、ちゃんと時間は残されていたのに。
君を失うのが恐ろしくて、言えず終いになってしまった。
白い煙が空に融けるように消えていくのを見届けて、踵を返す。
いつか、君と同じ所に必ず辿り着くよ。
心から君に伝えたい言葉があるんだ。
だから、
その時まで、そこで待っててくれないかい?
テーマ「届かぬ想い」
う〜ん、そうだねぇ、つらいよねぇ病気、あっ、ガンなの?、ねー、治るといいね。
いや、それ神様の仕事じゃないし、自分で、頑張りなよ?、ホント最近の子って他力本願〜。
それはお前が悪い。帰れ。
いや、知らんよ、神様なにもしてないよ?。
いけるよ、大丈夫、神様も押すから、全力で行きなさい。
だから、それはお前が悪いんだよ。帰れ。
……あ、ダメだったかぁ、元気出しなよ。
おいっ、賽銭ドロすんなよ。捕まるぞ。
ほら、捕まった、ってお前かよ。
えっ、マジか、おめでとうっ。
やだぁ、今度見せに来てねぇ~。
お前もう戻ってきたのかよ、まじめに生きろよ、まじで。
テーマ「神様へ」
春はなかなかに忙しく、二人揃って同じ日に休みを取れたのは、葉桜の頃のこと。
花見に行こう、と約束して取った休みだったのだが、あの冬の寒さは幻覚だったのでは、と思うほどのポカポカ陽気な彼岸のせいで計画は台無し。
あっという間に近場の桜が一斉に咲いたかと思えば、みぞれ混じりの雨が降り、台風並みの風が吹いて……文字通り、秒で散ってしまった。
朝のニュースを見て崩折れたのを、なだめすかして仕事に行かせるのに苦労したなぁ、と卵を焼きながら思い出し、一人苦笑する。
既に炒めて皿の上で冷ましていたタコさんウインナーと唐揚げの横に卵焼きをポロンと転がして四つに切る。
おにぎりも握ったし、後は詰めるだけだ。
我ながら上出来と自画自賛していると、おはようと眠そうに欠伸をしながら、キッチンのカウンターにやって来た。
どうやら花見は「おじゃん」になったと思っているのか、カウンターでダラダラと新聞の4コマ漫画を見出す。
花見に行くよ、と言ったら君はどれだけ驚くだろうか。
全ての桜が散ったわけではない、これから開花を迎える種もある。
ワクワクしながら君の名前を呼んで、うん?と上がった顔の、口めがけてタコさんウインナーをシュポンとぶちこんだ。
テーマ「快晴」