それでいい――――
ありのままでいいとか、君らしいとか、現在進行形の形を保っていればキミは喜ぶみたい。
本当の私は……醜くて胸が苦しくなる。自分の姿さえ見ていられない程に苦しい。それなのにキミは私に対していつも変わらぬ笑顔で優しく答えてくれる。
「無理に変わろうとしなくても大丈夫だよ。貴女はそのままが一番輝いて見えるから。無理に着飾ろうとしなくていいからね……って言えば言う程負担になるかな?でもね、苦しんでる貴女をいつも見ている僕の気持ちも少しは理解してほしいかな……?ありのまま――今の貴女、僕はそれでいいからね」
1つだけ――――
Q.もしも、1つだけ願いが叶うなら
貴方は何を叶えますか?
恋人が欲しい?結婚相手が欲しい?お金持ちになりたい?高級車が欲しい?
人それぞれ違った回答をするでしょう。中には面白い回答をする人もいると思います。1つの願いを3つに増やしてほしい……なんて反則的な願い事を。
でもね、僕はそんな回答だっていいと思います。
1つを3つに増やす……0から1を生み出すより遥かに簡単な事ですから。
しかし、それはあくまでも現実での話です。
願い事なんて所詮夢や希望の1つに過ぎません。
それすら叶えてくれない神は神ではない……と言うと少し過激でしょう。
だが、こういった思想を持つことは悪くない。
それを踏まえて貴方なら何を叶えますか?
僕は勿論――――
貴方の夢を叶えたいですね。
大切なもの――――
「こんな小汚い指輪なんて1円の価値にもならん」
「うーん、磨いたとしても値は付きませんね」
「いやいやこんな汚いの売りに来ないでよ」
『お宅さ、うち舐めてんの?』
どの店も揃ってこの言葉を言う。
俺にとってこの指輪は何億何十億、いやそれ以上の価値がある。だがこれに値を付けろと言われると値が付けられないのが現実だ。
他の人から見れば汚いボロいだけの指輪だけど、俺からすればたった一つの……たった一人の亡き母が渡してくれた大切なものだからな。
まぁそんな大切なものの値を知ろうとしてる俺は、余っ程親不孝なのかもしれないがな……
エイプリルフール――――
エイプリルフールと言えば、過去に嫌な思い出がありましてね。まだ若かった僕はエイプリルフールの意味をよく理解していませんでした。
一日全体を通して、嘘を付けるエイプリルフールと称されていると思ってました。でもね、その方が僕にとっては都合が良かったのかもしれません。
15年前の4月1日――――
明日は奏ちゃんと僕の付き合って3周年記念日だ。
折角高級レストランを予約して、おめかしする為にスーツも購入した。かなり気合いの入った準備をしたつもりなので、奏ちゃんに恥をかかせる訳にはいかない。普段貧乏な僕からしたら痛い出費だが、大切な彼女との記念日くらい奮発しなければ男が廃る。
明日が楽しみだ、きっと奏ちゃんも喜んでくれるはずだ。彼女にはこの事を伝えていないが、それなりにお洒落をしてきてくれるだろう。
いつもデートをする時は、とっても可愛いお洋服を着て現れるからね。あの姿はお姫様そのものだ。
なんて現を抜かしていると、一本の電話が鳴り響く。
僕は急いで家の電話を取り、受話器に耳を当てた。
「奏の母親です、奏が事故にあって緊急搬送されました。搬送先は██病院なので来れるなら来てほしいです」
とだけ告げられ電話は切れた。
僕は呆気に取られ、ただただ口を餌を求める鯉の様にパクパクする事しか出来ずにいた。
今日はエイプリルフール……
きっとこれは嘘だ、夢だ、幻だ。
そうじゃなければ彼女は本当に――――
幸せに――――
幸せになりたい、幸せが一番、幸福こそが生きる意味、生きてる事が幸せだ————
嗚呼煩わしい。
そんな言葉等、遠の昔に聞き飽きた。
どれだけ幸せを願っても天は人の声に耳を傾けない。
どれだけどれだけどれだけ願っても、人の声なんてモノは天には届かない。
それなのに何故人間は救いを求める。
私には理解が出来ない……いや、理解したら負けだ。
しかしこれを人は頑固と呼ぶらしい。
だが、頑固なんてモンは好きでなる訳じゃない。
成りたくて成る性格じゃない。
《成りたくないからこそ成ってしまった成れの果て》
そう私は考えている。
皮肉な事に今の姿は、私にとって不幸せだ。
幸せは望んで手に入れるモノじゃないのかもしれない。がめつく生きたとしても、手に入れられる代物じゃなかったのかもしれない。
だが人間は、人生の終点にて、一つだけ手に入れられる代物がある。
そうだ、それこそが私が心から望むモノ。
《終わりの幸》
という訳だ。