雷兎

Open App

エイプリルフール――――

エイプリルフールと言えば、過去に嫌な思い出がありましてね。まだ若かった僕はエイプリルフールの意味をよく理解していませんでした。
一日全体を通して、嘘を付けるエイプリルフールと称されていると思ってました。でもね、その方が僕にとっては都合が良かったのかもしれません。

15年前の4月1日――――

明日は奏ちゃんと僕の付き合って3周年記念日だ。
折角高級レストランを予約して、おめかしする為にスーツも購入した。かなり気合いの入った準備をしたつもりなので、奏ちゃんに恥をかかせる訳にはいかない。普段貧乏な僕からしたら痛い出費だが、大切な彼女との記念日くらい奮発しなければ男が廃る。

明日が楽しみだ、きっと奏ちゃんも喜んでくれるはずだ。彼女にはこの事を伝えていないが、それなりにお洒落をしてきてくれるだろう。
いつもデートをする時は、とっても可愛いお洋服を着て現れるからね。あの姿はお姫様そのものだ。

なんて現を抜かしていると、一本の電話が鳴り響く。
僕は急いで家の電話を取り、受話器に耳を当てた。

「奏の母親です、奏が事故にあって緊急搬送されました。搬送先は██病院なので来れるなら来てほしいです」

とだけ告げられ電話は切れた。
僕は呆気に取られ、ただただ口を餌を求める鯉の様にパクパクする事しか出来ずにいた。
今日はエイプリルフール……
きっとこれは嘘だ、夢だ、幻だ。
そうじゃなければ彼女は本当に――――

4/1/2024, 10:58:00 AM