最近は気温も高くなり半袖で外出する人も多い。
「半袖か。もう夏だなぁ。」
街を縦横無尽に縫って歩く人群を眺めながら、
気だるそうな声で女は言った。
「これさえなければなぁ。」
そう言った女の腕には無数の傷跡が咲いていた。
女の腕を見れば誰でも眉をひそめる事は明らかだった。不必要に視線を集めたくはない。
自身に咲いた傷跡を愛おしそうに眺めながら、女は逃げ惑う人々の様子を思い出していた。
「ふふ、次はどうしてやろうか。」
「ねぇ、僕らどっちに行けるんだろうね。」
君と手をつなぎながらポツリと言った。
できれば君が苦しまないでいられるところへ行きたいな、なんて思いながら。
「どっちでもいいじゃない。どこに行ったってきっと
何も変わらない。」
痛みと苦しみ、心躍った美しい日々に想いを馳せなが
ら答えた。そう。きっとどこに行ったって同じ。
でも、あなたと一緒なら。
僕は君の役に立てたのかな。
あなたがいたからここまでこれた。
「手、離しちゃだめだよ。」
「うん。絶対離さない。」
あと少しで僕らの、私たちの番だ。大丈夫。二人ならなんだって乗り越えられる。今までと同じように。
『私たち、ずっと一緒だよね』
控えめで、しかし輝く黄金の髪色の少女が言った。
『うん。ずっと、一緒』
紅く輝く髪色の少女が応えた。
暗い、暗い、先も見えないような闇の中で、あなただけ
が私を輝かせてくれる。あなたが見えなくなるほんの一
瞬でさえ耐えられないくらい、私にとってあなたが大
切で。
暗い、暗い、先も見えないような闇の中で、あなただけが私に応えてくれる。でも、ごめんね。ごめんね。ずっと一緒にはいられないの。
どうか、最期までそれに気づかないで。あなただけは、最期まで笑顔を向けてくれますように。
ここは、誰かにとっての理想郷。
止むことのない雨、それでも空は晴れ渡ってる。空には虹が駆けている。落ちていく雨粒。草花に弾かれる水滴。
それらに降り注ぐ太陽の光。まるで宝石のように輝いている。
私はそんな世界で、時には水たまりを飛び越え、時には水たまりに飛び込む。踊るように歩いていく。
降り注ぐ雨。まるで全てが私の味方のよう。
しばらくすればまた誰かにとっての理想郷へ旅立つ。
それまでは誰かが描いたこの理想郷で。
降り止まない雨に祝福されていよう。
やっとここまで来た。数え切れない犠牲を払って。
今日、ここで終わらせる。この手で。
「―――ッ」止まれない。もう。
ここで、あの日々に終止符を、打つ。
もう、あの頃の私には戻れない。お別れだ。
私は今日、全てを壊す。
「それでいいの?」
「これでよかったの」
「本当に?」
あの頃の私を、私たちを、泡沫のものとしよう。
どうせもう、戻れない。
「ごめんね」
「いこうか」