「あつい〜…!」
そうアナタが嘆く。
真夏の日差しは2人を照らしていて、肌をジリジリと焼いていく。
「君が外で遊びたいって言ったんでしょ?」
「だってこんなに暑いとは思わなかったんだもーん!」
そう言いながらアナタは公園のベンチに座る。この暑さでは、どの遊具も金具の部分が熱を持っているから、遊ぶのをやめたみたい。
ドクドクと熱さからか鼓動が早く動く。アナタの頬を伝う汗を無意識に目で追う。
「?…どうしたのー?」
「ううん、なんでも。」
「そっかー……ねぇ、飲み物買わない?流石にこんなに暑いと私溶けちゃうよ〜」
「いいよ、あそこの自販機行こっか」
「やったー!」
勢いよくベンチから立つその姿に少し笑いながら、2人で自販機の近くまで行く。
「あつー…飲み物これにしよ〜」
「私どうしようかな…」
「アンタ優柔不断だもんね〜」
「だってこんなに飲み物があるんだからしょうがないでしょ?逆に、君は迷わなすぎよ」
「あちゃー、痛い所つかれちゃった!でもそんな私も可愛いでしょ?」
「……別にー?」
おちゃらけて笑うアナタが真夏の太陽に負けないくらい眩しくて、思わず顔をそらす。そんな私を気にする様子はなく、アナタは近くの電柱に貼られたポスターを見た。
「……明日か〜」
「?……あぁ、お祭り?今年も2人で行くでしょ?」
「あー…それなんだけどぉー…今年は一緒に行けないんだ…」
「えっ…?」
アナタの可愛い声からでたその言葉で、私は飲み物を買おうとしていた指を止める。
当たり前のように今年もアナタと一緒に行くと思っていた私は、頭から冷水をかけられたかのように体の熱さも忘れていた。
今までアナタが遊ぶ隣には必ず私がいたのに、どうして?そんな疑問が浮かぶ。
「ど、うして?」
詰まるのどを無理やり動かし、アナタに聞く。
アナタはその眩しい笑顔を赤くさせ、目を逸らしていた。そんな表情、できたんだ。さっきとは違った心音がドクドクと鳴って、心の中が不安で埋め尽くされていく。
アナタはその可愛らしい口を動かして言葉を紡ごうとしていた。
「えっとね、これは秘密にしててほしいんだけど_」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「実はね、私__」
だめ、どうかその先を言わないで。
「…好きな人がいるんだ」
その瞬間、胸を貫かれたかのような痛みがした。
「だ、だれっ…?」
「この前知り合った別クラスの男の子!とても優しくてカッコいいんだ!」
顔を赤くしたまま笑顔で話すアナタの目には私がいない。その事実で胸が綿を敷き詰められたように苦しくなった。
私のほうがずっと前から、中学校の時からアナタのことを好きだったのに。その子よりもずっと前から。…それなのに。
「…お祭り、その子と一緒に行くの?」
「うん!誘ったらいいよって!だから明日、雨でお祭りが中止にならなければその子に……その、告白しようと思ってて…」
「そ、か…」
…でも、アナタが好きになった人ならきっと素敵な人なんだろうな。だって、アナタをそんなに可愛い笑顔にできるんだもの。
関係が崩れるのを恐れて、ずっとこの関係に甘えていた私には勝ち目がない。そんなふうに無理やり自分自身を納得させる。その後の私は、どんな会話をアナタとして帰ったのか覚えていなかった。
ただ一つ覚えているのは、家のテレビで見た天気予報では明日の天気は快晴だということだけ。
(あぁ、明日のお祭り中止になったらいいのにな)
『明日、もし晴れたら』
「アンタなんか嫌いだ、目の前から消えてくれる?」
私は目の前のアイツにそう吐き捨てる。アイツはそれが嫌だと言うかのような表情を浮かべながらも私の前から離れようとしない。
「私、アンタのいちいち突っかかってくるところとか、バカ真面目で少しのおふざけも許さない所とかすごく嫌だった。」
今までの恨みを連ねるかのようにアイツの目を見て毒を吐き続ける。
「正義気取りで、注意する声は馬鹿みたいに大きいし、準備する時間がすごく長いし。」
無言で私を見つめるアイツが、私の頬を撫でる。こんな時まで私の話を真剣に聞くなんて、やっぱりバカ真面目だ。
「頑固で、私が散々言っても話聞かないしさ。」
そこまで言って、ようやくアイツの表情が崩れる。はっ、いい気味だ。初めてアイツの泣き顔を拝めた。
「……アンタ、泣き顔クソダサいなw」
そう鼻で笑ってやれば、アイツは「喋るな」という。
そして私の頬に添えていた手で、私の手を握りしめた。
「……ねぇ、わかってるでしょ?だからさ、」
___どうか、この死にかけを置いて生きて。
そう言うと、アイツは「死ぬな、きっとまだ2人で生きて帰れる可能性があるはずだ」とほざく。
この火炎に包まれた屋内で、まともに動けもしない人と一緒に逃げれる算段なんてあるわけないのに。
おまけに倒壊した瓦礫が私の下半身を押しつぶしていて、もう長く生きれない事なんてアンタならわかっているはずでしょ?
「ねぇ、何してるの、私は逃げろって言ったよね。なんでここでも私の言うことを聞かないの。」
そう強く言っても、アイツは逃げようとしない。アイツは全てを悟った顔をしていて、私の手をより一層強く握っている。
どんどん息が苦しくなる。アイツも苦しいはずなのに、その表情は愛おしそうな、優しい顔をしていた。
「……私、アンタに生きてほしかったんだよ。嫌いなところも含めて、アンタの事好きだから。」
今まで言わなかった本当の気持ちを話すと、アイツは目を少し見開いて「僕も同じだ」と悲しそうに微笑んだ。
あぁ、こんなことなら早く言っていれば良かったな、なんて。死ぬ間際で、心残りなんて残したくなかったのに。
「アンタと一緒に死ぬなんて最悪だな」
「そうか?僕は君と一緒にいられて最高だよ」
『だから、一人でいたい。』