夕暮サイダー

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「アンタなんか嫌いだ、目の前から消えてくれる?」
私は目の前のアイツにそう吐き捨てる。アイツはそれが嫌だと言うかのような表情を浮かべながらも私の前から離れようとしない。
「私、アンタのいちいち突っかかってくるところとか、バカ真面目で少しのおふざけも許さない所とかすごく嫌だった。」
今までの恨みを連ねるかのようにアイツの目を見て毒を吐き続ける。
「正義気取りで、注意する声は馬鹿みたいに大きいし、準備する時間がすごく長いし。」
無言で私を見つめるアイツが、私の頬を撫でる。こんな時まで私の話を真剣に聞くなんて、やっぱりバカ真面目だ。
「頑固で、私が散々言っても話聞かないしさ。」
そこまで言って、ようやくアイツの表情が崩れる。はっ、いい気味だ。初めてアイツの泣き顔を拝めた。
「……アンタ、泣き顔クソダサいなw」
そう鼻で笑ってやれば、アイツは「喋るな」という。
そして私の頬に添えていた手で、私の手を握りしめた。
「……ねぇ、わかってるでしょ?だからさ、」

___どうか、この死にかけを置いて生きて。

そう言うと、アイツは「死ぬな、きっとまだ2人で生きて帰れる可能性があるはずだ」とほざく。
この火炎に包まれた屋内で、まともに動けもしない人と一緒に逃げれる算段なんてあるわけないのに。
おまけに倒壊した瓦礫が私の下半身を押しつぶしていて、もう長く生きれない事なんてアンタならわかっているはずでしょ?
「ねぇ、何してるの、私は逃げろって言ったよね。なんでここでも私の言うことを聞かないの。」
そう強く言っても、アイツは逃げようとしない。アイツは全てを悟った顔をしていて、私の手をより一層強く握っている。
どんどん息が苦しくなる。アイツも苦しいはずなのに、その表情は愛おしそうな、優しい顔をしていた。
「……私、アンタに生きてほしかったんだよ。嫌いなところも含めて、アンタの事好きだから。」
今まで言わなかった本当の気持ちを話すと、アイツは目を少し見開いて「僕も同じだ」と悲しそうに微笑んだ。
あぁ、こんなことなら早く言っていれば良かったな、なんて。死ぬ間際で、心残りなんて残したくなかったのに。
「アンタと一緒に死ぬなんて最悪だな」
「そうか?僕は君と一緒にいられて最高だよ」



『だから、一人でいたい。』

7/31/2024, 8:22:29 PM