お題保存
【光と闇の狭間で】
あなたがそっと手を差し伸べて、
私を迎えに来る瞬間を待っている。
はるか1000kmの空を飛んで、
私を迎えに来る瞬間を待っている。
私があなたのその手を取って、
あなたの身体に包まれる瞬間を、
あなたとの距離が0になる瞬間を、
ずっとずっと、待っている。
―――…待っていた。
もう2度と離さないで…。
【距離】
まだ私が幼いとき、空想の中に君がいた。
君は私が創造りだしたたった1人のお友だちで、友だちのいない私の寂しさを埋めてくれた。
真夜中まで一緒にお話をしたり、綺麗な夜空を眺めたり、朝が来るまで君は私の隣にいてくれた。
日が登ると君はいなくなってしまうからそれが少し不満ではあったけれど、私は君が大好きだった。
けれど君は私が歳を重ねるたびに私の前に現れることが少なくなり、私もいつしか日々の忙しさに君を忘れてしまうことが多くなってしまった。
そしてある日、君は私に別れを告げる。
顔もおぼろげになってしまったあなたに逢うのは何年ぶりだっただろうか。それでもあなたの優しい声を、私は忘れてはいなかった。
はらはらと涙を零す私にあなたは優しく触れ、あの頃と変わらぬ子どもの姿のままで私を見上げる。
「泣かないで」と言ったあなたの方が泣きそうな顔をしているのに、私を気遣う言葉に私はまた涙を流す。
私が創造った幻想のお友だち。独りの寂しさに私が生み出した幻影は、その役目を終えて消えていく。
「ありがとう。さようなら、――くん」
かつて私が呼んだあなたの名前。あなたに最初に贈ったプレゼントを…君の餞にもう一度呼ぶ。
君は少し驚いて、そして満面の笑顔を私に見せた。
その残像を抱いて、私は次の朝に目覚める。
そしてその夢を忘れないように、私はこの日記に君の記憶を記して残した。
【泣かないで】
あなたを知ったその日から、
私は長い冬のはじまりを迎えた。
その想いが芽吹くことはなく、
その花が可憐に咲くこともなく、
そしてその実が結ぶこともない。
白く染まった視界に映る銀世界。
分厚い氷に閉ざす一面の氷原。
寒さにも慣れ、冷たさにも馴染み、
マイナス60度に凍りつく。
永久凍土のその上で私はひとり静かに佇む。
そしてあなたを失ったその日から、
私の冬の終わりは永遠にないのです。
【冬のはじまり】
どうして君は始めからなにもかもを諦めてしまうの。
夢も希望も、愛も信頼も、最初から手に入らないと嘆いて、動き出すことさえ億劫になってしまう。
動かなければなにも始まらない。
綺麗事のようだけれどそれは揺るぎない真実で、その一歩を踏み出さなければなにも変わりはしない。
どれだけ私があなたを好きだと言っても、どれだけ私があなたを必要としていても、あなたが耳を傾けなければ風のように通り過ぎていくだけ。
あなたと私の関係を、そんなことで終わらせないで。
私はまだあなたと一緒にいたい。ともに笑って、ともに泣いて、長い人生をあなたとともに歩きたい。
怖いのなら私の目を見て。足が竦むのなら私の手を取って。諦めてしまう前に私の身体を抱きしめて。
たったそれだけの小さな切欠が、
あなたと私を繋いで結ぶ大きな一歩になる。
【終わらせないで】