まだ私が幼いとき、空想の中に君がいた。
君は私が創造りだしたたった1人のお友だちで、友だちのいない私の寂しさを埋めてくれた。
真夜中まで一緒にお話をしたり、綺麗な夜空を眺めたり、朝が来るまで君は私の隣にいてくれた。
日が登ると君はいなくなってしまうからそれが少し不満ではあったけれど、私は君が大好きだった。
けれど君は私が歳を重ねるたびに私の前に現れることが少なくなり、私もいつしか日々の忙しさに君を忘れてしまうことが多くなってしまった。
そしてある日、君は私に別れを告げる。
顔もおぼろげになってしまったあなたに逢うのは何年ぶりだっただろうか。それでもあなたの優しい声を、私は忘れてはいなかった。
はらはらと涙を零す私にあなたは優しく触れ、あの頃と変わらぬ子どもの姿のままで私を見上げる。
「泣かないで」と言ったあなたの方が泣きそうな顔をしているのに、私を気遣う言葉に私はまた涙を流す。
私が創造った幻想のお友だち。独りの寂しさに私が生み出した幻影は、その役目を終えて消えていく。
「ありがとう。さようなら、――くん」
かつて私が呼んだあなたの名前。あなたに最初に贈ったプレゼントを…君の餞にもう一度呼ぶ。
君は少し驚いて、そして満面の笑顔を私に見せた。
その残像を抱いて、私は次の朝に目覚める。
そしてその夢を忘れないように、私はこの日記に君の記憶を記して残した。
【泣かないで】
12/1/2023, 6:58:50 AM