遠くで鳴った雷に
呼び起こされたそれは
遠い日の記憶
夏祭りの夜
林檎飴をせがむ私の手を握る父の手
雷と共に降り出した雨
私をおぶって駆ける父の
足元で跳ねる泥の音と大きな背中
もう思い出にしかない父の姿
遠い遠い日々の残滓
テーマ『遠い日の記憶』
目が覚めると君がそばにいる。
それが当たり前の日常
──のはずだった。
なぁ、その扉の先へ行かないでくれ。
あの時、なんて言って笑ったんだ。
君が言葉を紡ごうと息を吸い込んだ。
そこで目が覚めた。
テーマ『目が覚めると』
街の明かりが灯る頃
私も家へと駆け出します。
息が上がっても足は止められません。
遠目に見える街の明かりを見ると
なんだか寂しくなって
泣き出しそうになってしまうからです。
街の明かりが灯る頃
私は家路を急ぎます。
誰も居ない、ひとりの家へ今日も帰るのです。
テーマ『街の明かり』
幼い頃、明け方に目覚めてしまった私がベッドから抜け出して階下に降りると、まだ誰も起きていないはずなのに突き当たりのキッチンからリンと鈴の音のような音がした。
(飼っている子猫かしら?)
そう思ってそうっと足音を立てないように扉の前まで進んで、少しだけ開いた隙間から中を覗き込めばそこに居たのは小さな光の粒達。
テーブルの上の角砂糖を囲んで楽しげにクルクルと回っていたわ。
暗闇に目が慣れてきたら、それは光の粒じゃなくて妖精で思わず
「わ!」
と声をあげてしまったら、驚いたようにこちらを見てそしてパッと消えてしまった。
大人になってからも時々思い出す。
今でも耳を澄ますとあの鈴の鳴るような可愛らしい笑い声が聞こえる気がするの。
テーマ『耳を澄ますと』
悲鳴、火、硝煙の匂い、逃げ惑う人々。
名ばかりの楽園は今この瞬間地獄と化した。
「ここも、駄目だった……」
隣にいた誰かがそう呟く。
その通り。
楽園なんて最初からどこにも無かったのだ。
テーマ『楽園』