夜凪

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3/2/2024, 10:49:27 AM

伸ばした手は虚しく宙を掻いた。
もがいても脳を侵食する悪夢と痛みから逃れる事は叶わず、
生理的に流れた涙は白磁の床に吸い込まれ染みをつくる。

視界が徐々にボヤけていく。
自身と世界の境があやふやになっていく。
朦朧とした意識の中で思い出すのは、
あの日の何気ない約束。

「結局、アイツだけが、お、れの……………」


テーマ『たった1つの希望』

2/29/2024, 3:03:53 PM

え〜本日は当列車“綺羅星特急"にご乗車頂き、
誠に有難う御座います。
当列車は安全に気をつけながら、
流星の如き速さでお客様を目的地まで確実に送り届けます。



どうなさいましたか。
え?切符にも車内のどこにも目的地が書いてないって?
……それは当たり前ですよ、お客様。
何たってこの列車はそこが目的地である限り、
何処にだって行くのですから。

例えば、
あの日別れたきりのあの子のところ。
無くしてしまった宝物のところ。
もう居ないあの人のところ……なんてのも。

──さぁお客様、アナタはこの列車に乗ってどちらまで?


テーマ『列車に乗って』

2/27/2024, 2:42:46 PM

白紙の用紙と向き合い、
文字を綴ること。絵を描くこと。

それは私にとって一種の現実逃避であり、
染み込んだ生活の一部でもあった。

目まぐるしく過ぎゆく日々の隙間で寄る辺となるもの。
暗い海に放り出された私を砂浜に押しあげる唯一のもの。

……これが正しい事なのか、私には分からない。

だが、今日も筆をとる。
明日へと心を繋ぎ止める、束の間の現実逃避の為。


テーマ『現実逃避』

2/24/2024, 2:19:05 AM

ふらりと立ち寄った古びた映画館。
上映されていたのはありきたりな恋愛映画で、
客は私1人だった。
「ハズレだな……」
嘆息しつつチケット代分くらいは、と私は映画を見続けた。

物語が終盤に差し掛かった時、後方の扉がキイッと音を立てた。
私はさして気にもとめず、スクリーンを見つめる。
画面の向こうでは主人公がヒロインに告白をするところだった。
慣れない手付きでヒロインの肩を抱き、そして口を開く。

「“君を、愛してる"」

突然、隣からも同じ台詞が聞こえて、私は驚いてそちらを見た。
「あの時の貴方そっくり。緊張して震えてた」
そこには妻が立っていた。
「……なんでここに」
「探した。執筆に行き詰まると思い出の地を巡るの変わらないね、作家先生」
「…………すまない」
謝ると妻は隣に腰掛けて、私の目を真っ直ぐ見つめた。

「謝罪なんて要らないわ。そんなのより……もう一度言ってくださらない?あの日みたいに」
そう言って変わらぬ笑顔を向ける妻の、その手を取ると私は返した。

「喜んで。但し今度は言葉を尽くして伝えよう、君への愛を」


テーマ『Love you』

2/21/2024, 3:53:44 AM

ふざけるな!
同情の言葉を吐いて、
心の隙間に付け入って、
散々甘やかして、優しくして。

心を許したところでこの仕打ちだ!!
こんな事なら、
こんな結末になるのなら、
あの時その手を取らなければ良かった。

出会いたく無かった。
知りたく、無かった。
愛したくなんて……

ああ……勝手に置いて逝くな……馬鹿野郎


テーマ『同情』

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