ふらりと立ち寄った古びた映画館。
上映されていたのはありきたりな恋愛映画で、
客は私1人だった。
「ハズレだな……」
嘆息しつつチケット代分くらいは、と私は映画を見続けた。
物語が終盤に差し掛かった時、後方の扉がキイッと音を立てた。
私はさして気にもとめず、スクリーンを見つめる。
画面の向こうでは主人公がヒロインに告白をするところだった。
慣れない手付きでヒロインの肩を抱き、そして口を開く。
「“君を、愛してる"」
突然、隣からも同じ台詞が聞こえて、私は驚いてそちらを見た。
「あの時の貴方そっくり。緊張して震えてた」
そこには妻が立っていた。
「……なんでここに」
「探した。執筆に行き詰まると思い出の地を巡るの変わらないね、作家先生」
「…………すまない」
謝ると妻は隣に腰掛けて、私の目を真っ直ぐ見つめた。
「謝罪なんて要らないわ。そんなのより……もう一度言ってくださらない?あの日みたいに」
そう言って変わらぬ笑顔を向ける妻の、その手を取ると私は返した。
「喜んで。但し今度は言葉を尽くして伝えよう、君への愛を」
テーマ『Love you』
2/24/2024, 2:19:05 AM