セロハンの 向こうで揺れる キャンドルの
暖かき光 雪を色づけ
芯の先 揺れるキャンドル 灯火は
北風をかわし のらりくらり
真っ白な壁に、溢れるような光が反射している。
歩くたびに足音がやけに鋭く響く。
白紙のようなこの回廊では、自分がどこを歩いているのか、見当もつかない。
ただ、まっすぐ歩くだけだ。
壁も床も窓枠も、一面、真っ白。
それらが真っ白な光を受けて、より一層白く輝く。
潔癖なほどの清潔さを体現した回廊だ。
毎日のことなのに、毎回、この回廊に一歩足を踏み入れる時は、得体の知れない天敵に見つかった時のような怖気を感じる。
しかし、僕は歩かねばならない。
それが僕の仕事だからだ。
僕の雇い主、偉大な芸術家とも世界一の変わり者とも呼ばれる中年の彼は、自分の作った館に閉じこもっている。
彼は、自分で設計した館の中程にある、この、「光の回廊」という作品からから外へは出てこない。
だから、彼に拾われて雇われ、館の従業員としてここで暮らし始めた僕にとって、彼のために、この光の回廊の先に食事を持っていくのが生きるための義務だった。
真っ白に輝く光の回廊を、恐る恐る歩きながら、僕は毎日考える。
彼とは何者なのだろうか。
僕を拾ったはずの彼の顔を、僕は見たことがなかった。
光の回廊は、真っ白に輝いている。
今どこを歩いているのか、分からなくなるくらい。
僕はゆっくりと歩く。
彼の部屋の、固く閉め切られたドアを目指して。
降る雪の 如き軽らん にてもあれ
降り積もる思い しづり雪のごと
ももとせの 大木もゆきの たまみずに
頭たるらん ましてや思いぞ
降り積もる 思いは甍も 貫かん
雪の重さも 積もりて知るらん
できるだけ曲線に、を心の中で唱えながら、背をぐうん、と伸ばす。
湾曲に手を、スラリと伸ばす。
手首をくるくると回せば、リボンもヒラヒラと舞う。
爪先を柔らかく滑らせて、ステップを踏む。
膝をバネに飛び跳ね、足首をクッションに、猫のように、着地する。
その間も手首を回さなくてはならない。
回すのをやめてしまえば、リボンも止まってしまう。
手首を柔らかく回しながら、私は跳ね回り、踊る。
リボンが一緒に鮮やかに舞いながら、くるくると踊り回る。
新体操を始めたのは、リボン競技に一目惚れしたからだった。
髪に結んだリボンも、競技をしているお姉さんと一緒に舞っているリボンも、びっくりするほど美しかった。
幼かった私は、それから熱心に親に頼みこんで、新体操を始めた。
最初にリボンを手に取った時は、感動なんてありきたりな言葉しか思いつかないほど嬉しかった。
同時に悔しかった。
最初っから、記憶の中のお姉さんのように美しくは舞えなかったから。
時が経って、昔から比べれば随分大人になった私には分かる。
私はきっと、あのお姉さんのように舞えない。
あのお姉さんと私は違うタイプの人間で、演技の長所も短所も違う。
しかし、リボンを持つたびに、あの時のハッとするほど美しい演技を、それを見た時の鮮やかな感動を思い出す。
今ではもうすっかり手に馴染むリボンは、未だに私の過去と、小さい頃私が描いた未来を繋いでいる。
私の大切な宝物。
このリボンは、私にとって、時を結ぶリボンなのだ。
何よりも愛らしくて、何よりも大切な。
手首を回すとリボンもくるくると舞う。
鮮やかに。
私の時を結びながら。
小さな手の ひらに渡された 贈り物
とびっきりの かさつきどんぐり
「手のひらの 贈り物」だと 伝票あり
冷凍熊の 手のひらを詰め