薄墨

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真っ白な壁に、溢れるような光が反射している。
歩くたびに足音がやけに鋭く響く。
白紙のようなこの回廊では、自分がどこを歩いているのか、見当もつかない。
ただ、まっすぐ歩くだけだ。

壁も床も窓枠も、一面、真っ白。
それらが真っ白な光を受けて、より一層白く輝く。
潔癖なほどの清潔さを体現した回廊だ。
毎日のことなのに、毎回、この回廊に一歩足を踏み入れる時は、得体の知れない天敵に見つかった時のような怖気を感じる。

しかし、僕は歩かねばならない。
それが僕の仕事だからだ。
僕の雇い主、偉大な芸術家とも世界一の変わり者とも呼ばれる中年の彼は、自分の作った館に閉じこもっている。

彼は、自分で設計した館の中程にある、この、「光の回廊」という作品からから外へは出てこない。

だから、彼に拾われて雇われ、館の従業員としてここで暮らし始めた僕にとって、彼のために、この光の回廊の先に食事を持っていくのが生きるための義務だった。

真っ白に輝く光の回廊を、恐る恐る歩きながら、僕は毎日考える。
彼とは何者なのだろうか。
僕を拾ったはずの彼の顔を、僕は見たことがなかった。

光の回廊は、真っ白に輝いている。
今どこを歩いているのか、分からなくなるくらい。
僕はゆっくりと歩く。
彼の部屋の、固く閉め切られたドアを目指して。

12/22/2025, 10:42:27 PM