薄墨

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5/25/2025, 3:38:34 PM

ぶちまけられた内臓が転がっている。
生から切り離されて、ただの物体に成り下がった皮膚の内側の粘膜が、ぬらぬらと光っている。

血の匂いはしていなかった。
生き物が、あるいは生モノがある、という気配もしなかった。

なぜなら、雨が降っていた。
灰色の空から灰色の地面に降り注ぐ雨が、生臭くて、目を背けたくなるような不快なものを、さらさらと流し去っていた。

ただ、生から切り離された物体が、それ特有の、少しばかりの不気味さを残して、雨に濡れていた。
灰の塊と炭化した骨が混じり合って、緩やかに崩れて、ぼろぼろと、雨と共に地面に染み込んでいく。

物音は雨音だけだった。
霧雨のような、細く、淡い、そして全てを洗い流すその雨音だけだった。
しとしとと、もう寝息すら立てない物体に平等に降り注ぐ、やさしい雨音だけだった。

雨が降っていた。
慌ただしく騒々しい破壊と逃亡のの末に、沈黙した施設に。
残骸と物体だけが無造作に転がった世界に。
灰色の地上に。

雨音だけが響いていた。
やさしい雨音だった。

誰にでも。
どんな物体にでも。

平等に降り続いていた。
やさしい雨音が、やさしい雨音だけが。

5/25/2025, 5:42:21 AM

梅雨どきの 灰色染まる 空模様
 やるせないこと 全て歌にして

紫陽花が 土で色を 変えるよに
 軽い移ろい 嘆くも歌にして

梅雨時の 重たい雲より 重苦しい
 やるせないこと 今は歌にして

5/23/2025, 8:51:09 PM

ふんわりと薄く卵を焼き上げて、
チキンごろごろのケチャップライスをそっと包む。

ハンバーグと野菜たちを、
こぼれないようにアルミホイルにそっと包む。

バナナをたっぷり使ったパウンドケーキの生地を、
型の中に流し入れ、そっとアルミホイルで包む。

揚げたてのドーナツを
溶かしたチョコレートでそっと包む。

陽気なごちそうたちの、
甘くて、穏やかで、浮ついた香り
陽気で、明るくて、騒がしい雰囲気
それにそっと包み込んで欲しかった。

夢中で手を動かす。
料理たちをそっと包んで。
料理たちに仕上げを施して。

ふと目線を上げてしまった。
しまった、と思った。
名前も、遺影すら撮れなかった位牌が、
私を悲しみでそっと包み込む。

私は手を動かす。
浮ついた、ごちそうの雰囲気に呑まれるために。
あったはずの幸せにそっと包み込んでもらうために。

5/22/2025, 10:32:34 PM

私たちを形作る細胞は、一ヶ月で入れ替わるらしい。

つまり、あの日の私はもういないのだ。
こっぴどく打ちのめされて、トボトボと帰ってきた、あの惨めな私はもういない。

あの、泣き疲れて寝落ちたあの忌まわしい夜から今日で一ヶ月。
今日の私はもう昨日までとは違う。
昨日までの私とは違うのだ。
私はもう変わったのだ。

いきなりドアが開いて、私の家族が連行されてから、今日で一ヶ月になる。

あの日、私は知ったのだ。
私の生活が法を犯した方法で成り立っていたこと。
あの家族は私の本当の家族ではないこと。
私の信用していたあの家族は、私たちの国の安全を脅かしていたということ。

私の家族は、私以外はみんな、私を裏切っていたということ。

あの日のあの夜から、何度泣いたか、もう覚えていない。
家族が連行されて、長い手続きと保護からの再教育、それから事情聴取。
諸々の長い長い手続きを終え、疲れ切ったあの夜から、私は何度も泣いた。

家族との別れが悲しくて。
家族に裏切られていたことがショックで。
私だけ何も知らせてもらえなかった不甲斐なさで。
自分の身近で起こっていた裏切りに気づけなかった無力感で。
プライベートな空間に突如何者かが乱入して、それからの生活が全部崩れ落ちてしまう、そんなことの恐怖に気づいて。

どうしようもなくて、泣く以外に出来ることなんてなかった。
何にも気づけなかった、鈍感で、無力で、子どもでしかなかった私。
それが昨日までの私。

でも、今日の私は、昨日とは違う私。
あの日から一ヶ月が経ったのだ。
細胞は入れ替わって、私は新しい私になった。

朝日がカーテンの隙間から、細く差し込んでいる。
あの日から、ずっと開けられなくてしまったままのカーテンの隙間から。

私はカーテンに手をかける。
一ヶ月後の朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。

5/21/2025, 9:23:44 PM

「sunrise」「sunrise」と聞き、振り向けば
 隣のホームに 特急が着き

朝陽君 「My name is sunrise」
 おどけて話し、ぎこちなく笑われ

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