薄墨

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ぶちまけられた内臓が転がっている。
生から切り離されて、ただの物体に成り下がった皮膚の内側の粘膜が、ぬらぬらと光っている。

血の匂いはしていなかった。
生き物が、あるいは生モノがある、という気配もしなかった。

なぜなら、雨が降っていた。
灰色の空から灰色の地面に降り注ぐ雨が、生臭くて、目を背けたくなるような不快なものを、さらさらと流し去っていた。

ただ、生から切り離された物体が、それ特有の、少しばかりの不気味さを残して、雨に濡れていた。
灰の塊と炭化した骨が混じり合って、緩やかに崩れて、ぼろぼろと、雨と共に地面に染み込んでいく。

物音は雨音だけだった。
霧雨のような、細く、淡い、そして全てを洗い流すその雨音だけだった。
しとしとと、もう寝息すら立てない物体に平等に降り注ぐ、やさしい雨音だけだった。

雨が降っていた。
慌ただしく騒々しい破壊と逃亡のの末に、沈黙した施設に。
残骸と物体だけが無造作に転がった世界に。
灰色の地上に。

雨音だけが響いていた。
やさしい雨音だった。

誰にでも。
どんな物体にでも。

平等に降り続いていた。
やさしい雨音が、やさしい雨音だけが。

5/25/2025, 3:38:34 PM