薄墨

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私たちを形作る細胞は、一ヶ月で入れ替わるらしい。

つまり、あの日の私はもういないのだ。
こっぴどく打ちのめされて、トボトボと帰ってきた、あの惨めな私はもういない。

あの、泣き疲れて寝落ちたあの忌まわしい夜から今日で一ヶ月。
今日の私はもう昨日までとは違う。
昨日までの私とは違うのだ。
私はもう変わったのだ。

いきなりドアが開いて、私の家族が連行されてから、今日で一ヶ月になる。

あの日、私は知ったのだ。
私の生活が法を犯した方法で成り立っていたこと。
あの家族は私の本当の家族ではないこと。
私の信用していたあの家族は、私たちの国の安全を脅かしていたということ。

私の家族は、私以外はみんな、私を裏切っていたということ。

あの日のあの夜から、何度泣いたか、もう覚えていない。
家族が連行されて、長い手続きと保護からの再教育、それから事情聴取。
諸々の長い長い手続きを終え、疲れ切ったあの夜から、私は何度も泣いた。

家族との別れが悲しくて。
家族に裏切られていたことがショックで。
私だけ何も知らせてもらえなかった不甲斐なさで。
自分の身近で起こっていた裏切りに気づけなかった無力感で。
プライベートな空間に突如何者かが乱入して、それからの生活が全部崩れ落ちてしまう、そんなことの恐怖に気づいて。

どうしようもなくて、泣く以外に出来ることなんてなかった。
何にも気づけなかった、鈍感で、無力で、子どもでしかなかった私。
それが昨日までの私。

でも、今日の私は、昨日とは違う私。
あの日から一ヶ月が経ったのだ。
細胞は入れ替わって、私は新しい私になった。

朝日がカーテンの隙間から、細く差し込んでいる。
あの日から、ずっと開けられなくてしまったままのカーテンの隙間から。

私はカーテンに手をかける。
一ヶ月後の朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。

5/22/2025, 10:32:34 PM