ふんわりと薄く卵を焼き上げて、
チキンごろごろのケチャップライスをそっと包む。
ハンバーグと野菜たちを、
こぼれないようにアルミホイルにそっと包む。
バナナをたっぷり使ったパウンドケーキの生地を、
型の中に流し入れ、そっとアルミホイルで包む。
揚げたてのドーナツを
溶かしたチョコレートでそっと包む。
陽気なごちそうたちの、
甘くて、穏やかで、浮ついた香り
陽気で、明るくて、騒がしい雰囲気
それにそっと包み込んで欲しかった。
夢中で手を動かす。
料理たちをそっと包んで。
料理たちに仕上げを施して。
ふと目線を上げてしまった。
しまった、と思った。
名前も、遺影すら撮れなかった位牌が、
私を悲しみでそっと包み込む。
私は手を動かす。
浮ついた、ごちそうの雰囲気に呑まれるために。
あったはずの幸せにそっと包み込んでもらうために。
私たちを形作る細胞は、一ヶ月で入れ替わるらしい。
つまり、あの日の私はもういないのだ。
こっぴどく打ちのめされて、トボトボと帰ってきた、あの惨めな私はもういない。
あの、泣き疲れて寝落ちたあの忌まわしい夜から今日で一ヶ月。
今日の私はもう昨日までとは違う。
昨日までの私とは違うのだ。
私はもう変わったのだ。
いきなりドアが開いて、私の家族が連行されてから、今日で一ヶ月になる。
あの日、私は知ったのだ。
私の生活が法を犯した方法で成り立っていたこと。
あの家族は私の本当の家族ではないこと。
私の信用していたあの家族は、私たちの国の安全を脅かしていたということ。
私の家族は、私以外はみんな、私を裏切っていたということ。
あの日のあの夜から、何度泣いたか、もう覚えていない。
家族が連行されて、長い手続きと保護からの再教育、それから事情聴取。
諸々の長い長い手続きを終え、疲れ切ったあの夜から、私は何度も泣いた。
家族との別れが悲しくて。
家族に裏切られていたことがショックで。
私だけ何も知らせてもらえなかった不甲斐なさで。
自分の身近で起こっていた裏切りに気づけなかった無力感で。
プライベートな空間に突如何者かが乱入して、それからの生活が全部崩れ落ちてしまう、そんなことの恐怖に気づいて。
どうしようもなくて、泣く以外に出来ることなんてなかった。
何にも気づけなかった、鈍感で、無力で、子どもでしかなかった私。
それが昨日までの私。
でも、今日の私は、昨日とは違う私。
あの日から一ヶ月が経ったのだ。
細胞は入れ替わって、私は新しい私になった。
朝日がカーテンの隙間から、細く差し込んでいる。
あの日から、ずっと開けられなくてしまったままのカーテンの隙間から。
私はカーテンに手をかける。
一ヶ月後の朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
「sunrise」「sunrise」と聞き、振り向けば
隣のホームに 特急が着き
朝陽君 「My name is sunrise」
おどけて話し、ぎこちなく笑われ
スカッとした青空が、どうしようもなくうるさい時は
人肌ほどにあたためたゼラチンを溶かして、
爽やかなゼリーにして
食べてしまおう
どよんとした灰色の空が、どうしようもなく重たい時は
さらっさらの漂白剤を溶かして、
新品みたいに洗濯して
アイロンをかけよう
何もかも嫌になって、どうしようもなく疲れた時は
ただ静かに地べたに寝転んで、
腕をまっすぐ垂直に上げて
空に溶けよう
When the sky is too blue
We make bule sky jelly,
The gelatin dissolve in sky
And eating
When the sky is too ashen
We wash ashe sky,
The bleach dissolve in sky
And ironing
When you are tired and gloom
We throw ourself down earth's surface
Reach our arms for the sky
Like our body dissolve in sky
「どうしても…」 食い下がる空 蝉の声