年に2回の小さな美術展。
場所:祖父母宅
期間:私が祖父母宅に着いてから次の日まで
箪笥の中のお着物の総入れ替え。
いつもは箪笥の中で眠っているお着物も、この日ばかりは例外なく畳に引っ張り出す。
その中から祖母が選んだいくつかを衣桁に掛けるのが私の仕事。
広げられたお着物は絵画のように見える。
素敵なお花がたくさん咲いているもの、
どこかの風景が描かれているもの、
一色に染められているけど生地そのものに模様が施されているもの、
いろんな太さや色の糸で織られているもの、
さらさらのものや、つるつるのもの、ざらざらのもの、
全部に個性があって面白い。
衣桁の周りをぐるぐるしながら絵画ならぬお着物を鑑賞する私に、大人たちは「絵画じゃないよ、着るものだよ」「職人さんが絵を描いたんだよ」「職人さんが糸を並べながら織ったんだよ」「これはここぞという時に着るものだよ」「こっちはあったかいお着物なんだよ」「これは涼しいお着物なんだよ」…、いろいろ教えてくれた。
お着物はその名の通り着るもの。絵画じゃない。
でも職人さんの“手”によって創られたもの。
やっぱり絵画みたい。
絵画を纏えるなんて素敵。とってもおしゃれ。
そろそろ あったかいお着物を着たいな。
次のお休みの日に、小さな美術展をしよう。
──────“衣がえ”
一本の痩せたオリーブの樹のある丘。
ワルシャワの古い街角やウィーンの石畳の写真。
マリブ・ビーチの朝焼け。
バルセロナの街に掲げられた“ ¡ No pasarán ! ”のスローガン。
サグラダ・ファミリアのステンドグラスに差し込む月明かり。
スペインの内戦に身を投じたカメラマンを描いた舞台作品。
小さかった私には、スペインがどこなのか、ファシストとは何なのかすらよくわからなかった。
でも、理解できた音楽があった。
第一幕の最後の曲「ONE HEART」
人は誰でも心があり、そこには血が流れている。
心で、お互いのぬくもりを感じられたら
心で、傷つけないよう庇いあえば
心で、許し合い認め合うことの意味を忘れなければ
心で、夢を共に追いかけられれば
心で、語り明かすことができたら
心で、愛し合い触れ合うことができれば
心で、恐れさえも分かち合えば
友を信じることができれば
争いは起きない。
今、世界には苦しんでいる人たちがいる。
私に直接何かができるわけではない。
でも、せめて、彼らに心を寄せることを忘れたくはない。
──────“声が枯れるまで”