〈紅茶の香り〉
仕事が終わり、久しぶりに駅前にある雑貨屋へ向かった。今日、同僚が勧めてくれてその雑貨屋の紅茶が美味しいとのことで。気づけば自然と雑貨屋へ向かっていた。
店内はこじんまりとしており、なんの曲かは分からないが、オルゴールが店内を潤していた。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
20代あたりの女性が声をかけてきた。丁度、自分の妹と年齢が近そうでいつもであれば断るが、今回は答えてしまった。
「紅茶を探してて。同僚がここのアールグレイがとても美味しいと聞いたので」
「ありがとうございます。こちらの商品がうちの目玉商品です」
同僚が見せてくれた商品と同じパッケージをした小さな小袋だった。
「じゃあ、これを1つお願いします」
私は会計を頼み、店を後にした。
小さな袋に入った小袋からふんわりと香りがした。
〈行かないで〉
祖母が死んだ。
優しい祖母だった。
世界で唯一、私のことを理解し、肯定し、愛してくれる存在だった。
急な交通事故に巻き込まれ、3時間集中治療室で治療を受けたが、見込みがないと言われ、祖父が延命治療を中断させた。
喪主は祖父が務めたが、誰がどう見てもも抜け殻のように顔が真っ青で、今にも倒れそうな勢いだった。何度も隣に座る父が代弁したり、祖父の背中をさすっていた。
最初は、父や母たちは喪主は自分がやると言ったが、「最後ぐらい母さんの隣にいたい」という祖父の要望で決めた。
葬式が終わり、火葬場に着いた。
火葬場のスタッフが、祖母が眠る棺桶を外に運び出し、納棺の流れに入った。
祖父もわかっているのだろう。
これが終われば、とうとう最後の別れを告げなければならないことを。
時間が止まればいいのにと思ったが、現実は残酷で、「皆様、最後のお別れをしてください」と喪服を身にまとうスタッフが言った。
それぞれが祖母の顔を撫でたり、頭を下げたりする中、ひとり、祖父はソファーに座っていた。
私は最後の別れを告げた。
おばあちゃんっ子だった私だからか、両親は一番最初に祖母と話すよう促した。
祖母がつけていたネックレスを外し、自分の首に着けた。金属製のネックレスで、海に入っても錆がつかないとよく自慢していて、祖父が還暦祝いに買ってくれたものだ。それを孫である私がつけるのは生意気に見えるかもしれないが、生前祖母の口癖で「ばあちゃんが死んだら、千穂にあげる」と言われていたため、つけさせてもらう。
ネックレスのはずなのに鎖のように感じたのは私は気の所為だろうか。
祖母が死んだという事実が今になって、私を首につけてるネックレスから足先まだ襲ってきた。そして、それは私だけではなかった。ソファーに座る祖父も同じだった。
祖父は祖母がつけていた結婚指輪をチェーンに通して、私と同じようにネックレスにしていた。
あまりにも祖母を失った悲しみに耐えられない姿を見せる祖父が、心苦しくて火葬場へ向かうバスの車内で私が提案した。
「プレゼントにはそれぞれ意味が込められてるの。特にアクセリー系はそうなんだよね。指輪は契約、約束。ネックレスは『永遠にあなたと居たい』っていう意味があるんだよ」
「そんなの、どこで覚えてきたんだ?」
「女の子は気にするんだよ?もらったプレゼントの意味とか、特にあげるときはね」
「じゃあ、この母さんの結婚指輪はネックレスにしようか」
「そう言うと思って、チェーンあるよ。あげる」
「お前は母さんと似て、準備が良いな」
ふっと祖父は祖母が死んで初めて笑った。
最後の別れが終わろうとしたが、肝心の喪主がまだしていなかった。スタッフは気を遣って無理はしなくて良いと言ってくれた。しかし、祖父は無言で立ち上がり、祖母のもとへよろよろと近づいた。
自然と周りの人間が、道を作り、最後の別れの時間を惜しんだ。
祖父は祖母の顔を撫で、なにかをつぶやいた。
なんと言ったのか私には聞こえなかったが、そっちの方が良いだろう。愛し愛される人間同士にしか分からないものだってある。
「では、この赤いボタンを押してください。すると、火葬が始まります。どなたか、1名押してください」
父が手をあげようとしたが、「私がやります」と祖父が遮った。父は止めたが祖父の頑固さを知っているのか、黙って後ろに下がった。
「ピーーー」
無言でボタンは押され、その場にいた人たちが合掌を始める。それがマナーだと教えられてきたからだ。故人を悼む気持ちを込めて、合掌をするのだと教えられたが、祖父はボタンを押した直後、部屋を出て行った。
ぎょっと親戚たちは祖父の行動を見ていたが、私たちは知らないフリをしてそのまま合掌を続けた。
控え室で親戚たちが祖父のマナーの悪さで話が盛り上がる中、私は部屋の隅でネックレスを触っていた。
本当に死んだんだな。
人間はいつか死ぬ生き物だと頭では理解していたが、理解しているつもりだったようだ。未だに夢だと言われても頷いてしまいそうだ。
「千穂、おじいちゃんの様子見に行ってくれる?」
親戚たちの対応に追われてる母から言われ、祖父を探しに行った。
しかし、どこに行っても見当たらず、先ほどの火葬でお世話になったスタッフと会った。
「あの、前田寛はどこにいますか?先ほど祖母を火葬した際、ボタンを押した者なんですが」
「あぁ!お祖父様はあの部屋にいますよ。火葬部屋に。私共も『控え室でお休みください』と言ったのですが、離れたくないようで。恐らく今もいらっしゃいますよ」
「そうなんですね、ご迷惑おかけしました。ありがとうございます」
私は急いで火葬部屋へ向かった。
ソファーに座る祖父の背中姿が見えた。
声をかけようとしたが、祖父の声で遮られた。
「行かないで!行かないで…なんでなんだよ!」
顔は見えないが、きっと鼻水と涙、涎まで垂らしながら泣いていた。
私は祖父の横に座り、火葬が終わるまで待っていた。
〈どこまでも続く青い空〉
ベランダに出る。
〈衣替え〉
朝が肌寒くなってきたこの季節、布団から出るのが億劫になる。
音楽業界でエンジニアとして働く私にとって、服装は動きやすさ重視で決めている。
ライブやコンサートでの音響を担当したり、アーティストのレコーディングを撮り、その後修正を加えたりと、音のことならなんでも屋さんと言われるほど忙しい日々を送っている。特にライブでの音響、PAエンジニアとして働く時はせかせか動かなければならないので、ライブTシャツにジーパンスタイルが基本。
裏方なので、お客さんからは見られないし、作曲家でもないから楽曲クレジットに載らない。たまには載るが、精々映画のエンドロールで大量のスタッフの中にいるひとりのスタッフ程度だ。
「もっとオシャレしなよ」
昨日の同窓会でそれぞれの仕事の話をしていた時、港区でOLをしている女子から言われた。
確かにこの仕事に就いてから、服装なんて考えてこなかった。動きやすさ触り心地でしか選ばずに、決して、見た目で選んではいなかった。というか、そもそも休日がほとんどない。会社で寝泊まりすることなんてザラにあるし、一度家に戻り風呂に入ってからまた会社に戻ることもある。休日なんて、半日あれば良い方だ。時間は関係なく、依頼があれば仕事をする。不規則で不安定で低収入な仕事だからこそ、服装なんて気にする余裕なんてない。今のレーベルに入社して死に物狂いで勉強した。大抵は専門学校卒から入社するか、一般大学卒でアシスタントとして働くのが主流だ。最近では後者が圧倒的に多くなり、アシスタント同士でも仕事の奪い合いが始まる。それを経て、少しずつ先輩の仕事を手伝い、やっとひとりで仕事ができるようになる。
正直、港区でOLしている人になんか、こんな気持ちは分からないだろうと貶していた。
彼女はばっちりメイクをして、ネイルサロンと皮膚科に定期的に通い、コテで髪を巻き、香水をぷんぷん振りかける。しかも皮膚科は、わざわざ韓国まで行くという。
一方で私がネイルしたら機材を運ぶ時に折れてしまうし、髪を巻けばレコーディング後の修正作業の時に邪魔になる。香水を振りかければ、私自身が匂いに敏感な為集中できない。
同好会も終わりに近づいた頃、目の前の席に座る楠木と視線が合う。
「前田はレコーディングエンジニアだったよな?」
ビール片手に楠木が聞く。
「うん、そうだよ。ていうか今ではレコーディング以外もやらせてもらってるけどね。音響には変わりはないけど」
「アイドルとかのレコーディングとかってさ、『かっこいい!』とか思わないの?」
「うーん、それが思わないんだよね。そもそもこの仕事に就いたのが、音にこだわりがある自分に向いてるんじゃないかって思って目指したから。正直、顔より歌声とか、シンセって言う所謂音源にしか興味ないね」
「へー、珍しいな。音にこだわりがあるって言うのはどういうこと?」
「んー、説明するのは難しいけど好きな音があるっていうのは1つあるかな。曲中で流れてくる、イヤフォンしたらやっと聴こえる低度の低音だったり、コップをスプーンで叩く音とかが割と好きかも」
「具体的にさ、この曲の音が良いっていうのはある?」
「あーそうだね。あの、popgirlって曲、知ってる?」
「知ってる!韓国のアイドルの曲でしょ?」
「そうそう。その子のfor uっていうラップのバックで鳴ってるギターの音色が最近好きかな」
「やー、よくそこまで聴き取れるね」
「職業病的なものだよ」
「あーなるほどね。じゃあ割と歌詞よりサウンド重視?」
「そうなるね」
一気に喋ったのでハイボールをぐいっと飲む。
「楠木は会社員だよね」
「そうだよーオフィスでずっーとパソコンと向き合ってる」
彼は自嘲するように言った。
「ずっとパソコンと向き合うと肩こり酷いよね」
私もレコーディング後の修正作業はパソコンでするので共感できる。
「あれ、やばいよな!背伸びしたら背中らへんの骨がボキボキ言うもん!」
「首とかもなるよね」
まさかの肩こりで盛り上がる私たち。
しかし、今まで肩こりや腰の痛みを笑いながら話していた彼は、顔色を変え、じっと私の方を見た。
それに気づかないほどの鈍感でもないので、さり気なく「何か悩みでもあるの?」と聞いた。
すると彼は、「仕事してる時って、やっぱり動きやすさ重視で服を決めてるの?」と想像の斜め上の質問を問いかけた。
「そうだね。やっぱりTPO的なものもあるし、何より機材を運んだり、意外と動き回るからね。その時にスカートだと、どうしても動きにくいし、服装によっては『前田はあのアイドルの〇〇が好きだからファッションに気を遣ってるんだよ』って言われかねないからね」
「確かに、ライブとか行った時スタッフさんがすごく忙しそうだったし。フリフリの服装で行ったら気があるって思われたら大変だしね」
「そうなんだよね。でも、私は元々パンツスタイルの方が好きだし、ストリート系とかオーバーサイズのものが好きだったから特に何も思わなかっけど、同僚の中にはゴスロリが好きな子がいて、仕事中はゴスロリが着れないって言ってたな」
「あー、やっぱり好きな服を着て仕事した方が捗るしな。そのゴスロリの子は大丈夫なの?」
「全然大丈夫!休みの日にめちゃめちゃ着てるし、インスタに載せてるくらいだから。その子は営業の方だから土日祝日は休みだし定時退社だから、好きなことに時間使ってるよ」
「あっ、営業の方なんだ。休みとかは部署によっても変わるよね」
「変わる!変わる!私なんか久しぶりの休日だよ~楠木はどんな感じなの?」
「俺はそのゴスロリの子とほぼ同じ。会社員だしね。前田は凄いな、忙しい中、今日も来てくれたんでしょ?疲れてないの?」
「疲れてないよ!むしろ元気もらってる感じだよ。うちは制作チームだから、みんな死んだ顔だよ。会社で寝泊まりするのがざらにあるしね。そのせいで若い子は辞めていくんだけどね」
皮肉のように言った。実際、私の後輩も先月辞めたばかりだ。これから伸びる子だと思っていたが、入社してすぐに自分の好きなアイドルのレコーディングを担当できると夢を持っていた彼女にとってみれば、自分の立ち位置が気に食わなかったようだった。入社すれば、推しに会える、付き合える可能性が高まると言った下心を持って面接に臨む人は少なくない。裏方は、ファンでさえも見れないレコーディングやリハーサル、打ち合わせに同席するのだから。そう思うのは仕方がない。ただ、スタッフとアイドルの恋愛は禁止されている。これは音楽業界だけではなく、芸能界の掟である。見つかり次第、スタッフはクビになる。どんなに優秀なスタッフでも。それくらいやってはいけないことなのだ。アイドルとスタッフの信頼関係を維持するためにも必要なことだから。
楠木は聞き上手だ。だから何でもかんでも話してしまう。辞めた後輩のことも聞いてもらった。
同窓会が終わり、各々靴を履き、店の外でタクシーを呼ぶ者、彼氏を呼ぶ者。様々な中、少し離れた所にいた楠木が近づいてきた。
「これ、衣替えって言ったら変だけど、たまたま見つけてこのくらいのアクセリーだったら邪魔じゃないかなって思って。良かったら貰って。休みの日とかにでもつけてよ」
それは小指サイズの指輪だった。しかもその指輪のブランドは、私が勤めてるレーベルとのコラボ商品で、品薄状態になっていたものだ。
「えっ!いいの?」
「うん。前田のレーベルとコラボしたブランドでしょ?自分の会社の商品くらい身につけてたほうが話のネタにもなるんじゃない?」
「ありがとう!すごく嬉しい。欲しかったんだよね」
「それならよかった。今日はあえて良かたっよ、また連絡するね」
「私も会えてよかったよ。本当にありがとね」
「じゃ、俺こっちだから。体に気をつけてね」
「うん。楠木も気をつけてね」
風のように去った彼の後ろ姿を見て、貰った指輪をつけてみた。
仕事柄、港区のOLのように可愛いスカートを履くこともできないし、メイクも最低限しかできない。年中たいして変わらなくて、寒い時はパーカーを羽織るくらいだ。
けれど、この指輪は私にとっての衣替えだ。
指輪をはめ、残っている仕事を終わらせるため、会社に戻る。
いつも違う足取りで向かう。
〈声が枯れるまで〉
幼い頃、保育園の先生から聞かれた「春菜ちゃんは将来、何になりたい?」
記憶が正しければ、私は女優になりたいと言った。
よくある、子供らしい答えだと思う。
なぜそんな昔のことを思い出したのかと言うと、丁度今の時期が将来の選択肢が目の前に用意され、選べと言われてるからだ。
今では安定した仕事や両親が喜ぶ選択肢を選ぶことになる。
自分で言うのは小っ恥ずかしいが、私は成績はほぼ4か5を取っていて、バレー部でもリベロとしてそこそこの成績を出してきた。チーム内では、チビとイジられるが仲は良く、特に不満もない。
内申書に書けるように地域のボランティア活動にも参加したし、介護施設のボランティアもした。
このままだと、指定校推薦や総合型選抜で名の知れた大学に合格できると担任との面談で言われた。
でも、何かがちがう。
成績でほぼオール5を取っても、入試対策で褒められても、違和感を感じていた。
まるで小さい魚の骨が喉に突っかかっている状態。
やりたいことなんて、考えたことすらなかった。
常に自分より他人を優先し、これまでの人生での選択は世間体や親戚の目や両親からの期待で決めてきた。
自分で考えたこともなかった。
「春菜、帰ろう」
いつの間にか放課後になって、いつもの友人と学校を出る。同じクラスで席が近いことから、距離が縮まった。
彼女は美大を目指しているらしい。幼い頃、彼女の祖母が持っていた日本画集を読んだことがきっかけで、彼女も日本画家を目指すようになった。
彼女は私のことを羨ましく思うと言っていた。
でも同じように、私は彼女のことを羨ましく思っている。
自分の好きなことを明確化、言語化できて、挑戦する姿はかっこいいと思う。
私にはそんな勇気はない。安定で安心したルートじゃないと、不安で仕方がない。
電車で彼女が先に最寄り駅で降りたことをきっかけに、ひとりになった。
人が急に増えたので別の車両に乗り換え、席に着いた。
リュックを膝の上に下ろし、無線イヤフォンを付けようとした時、ふと目の前から視線が感じた。
何気なく見てみると、中学生くらいの女の子がスマホのメモアプリを見せている。私は勝手に読んで良いのか分からなかったが、隣の中年女性は気付いていなかったため、代わりに読んでやろうと軽い気持ちで目を向けた。
「痴漢されてます 助けて」
私はその文字を目に焼き付け、女の子とアイコンタクトを取った。今にも泣きそうな女の子に私は手を伸ばし、自分の席に座るように促した。すると、後ろで女の子に手を出してたであろう中年男性がびっくりした顔で私を見た。
「ねぇ、この人で合ってる?」
私は女の子にそう聞いた。女の子は泣きながらこくこくと頷いた。
男もこれからの仕打ちを理解したのか、鞄を抱え、別の車両に行こうとした。
「待てやごらぁ!!」
自分の声とは思えないほど、ドスの効いた声で男の腕をつかんだ。まるで福岡の警察官が、暴力団の家宅捜索に入る時のような、決して可愛くない声で静止させた。
周りの乗客のことなんてどうでも良い。
女の子を一生のトラウマを植え付けさせた罪は、司法では罪は軽いが、私にとっては終身刑に値する。
次の駅で女の子と男を駅員に引き渡し、事情聴取で私も呼ばれた。
帰り際に、女の子からお礼をしたいからと連絡先を交換した。
誰もいない家に着き、私は自室で泣き叫んだ。
あの子を助けることができたのは、あの男を見逃さなかったのは、全部私のトラウマのおかげなんだと思い知らされた。
私は、小学生の頃、遠方に住む叔母に会うためひとりで新幹線に乗った。大阪に住む叔母に会うまでの2時間、私は隣の乗客から、太腿や腕、を触られた経験がある。当時はそれが好意があると思って触られてると思い、新幹線のホームで叔母に会った際、意気揚々と話した。
しかし、それはセクハラ、特に小学生女児を狙ったものであると知っている叔母は、急いで私の母に連絡し、医療機関に受診するよう電話をした。
帰りは叔母もチケットを購入し、私の隣の席に座った。
家に帰ると、母は「ひとりで行かせてごめんね、怖かったね」と泣きながら私を抱きしめ、父は同じ男として許せないと憤慨していた。
その後カウンセリングや治療の甲斐もあって、克服することができた。
しかし、皮肉なことに今回は私の経験があったからこそできたことだと思う。
経験していなかったらあの子の文字を無視をしていたと思うし、何もできずに後悔していたと思う。
そう考えるとあの頃の記憶が蘇り、触られた感触や隣の乗客の鼻息まで思い出してしまい、パニックになった。
私は部屋中のものを、視界に入るもの全てを投げた。
奇声を上げながら、泣き叫んだ。
私の声が枯れるまで、私はSOSを出した。