「星座」
占いとか信じないはずなのに、あの子の星座を知ってから、星座占いをチェックするようになった。
毎日LINEで来る「モモンガちゃんの星座占い」
私はLINEのスタンプは基本無料のものを使っている。コインの集め方や購入の仕方が分からないからという、至ってシンプルな理由。調べようかと何度も思った。この身の絵柄のスタンプだったり、好きなアーティストの公式スタンプが欲しいって思った時は、特にそう思ったが、そもそもLINEをつなげてる友達が片手で収まる程度だったので、ならば必要ないのでは?と思い、結局調べもしなかった。ただ、私のような人でもスタンプをゲットする方法だってある。まず、全然興味のないブランドを友だち登録する。すると、すぐに「友だち登録ありがとうございます」とお決まりの文章とともにスタンプが贈呈される。そして、ブランドのキャラクターのスタンプを集めている。最後に、そのブランドはブロックする。要は、スタンプ目当てで友だち登録してるし、おそらく企業側もそれを見越していると思う。
モモンガちゃんの星座占いは友だち登録をして、自分の星座を登録して、通知のリマインダーをセットしたら毎日届くようなシステムになっている。
私は射手座だったが、好きなあの子が蟹座だと知ってからは、慌てて設定を変更し、蟹座に変更した。
星座占いなんて興味もない。信用性なんかこれっぽっちもないし、星座占いに頼る自分も嫌だ。
でも、あの子が今日はいい日になるなとか、ラッキーアイテムはピンクのハンカチだから、持っておこう。と中々星座占いに振り回されている自分もいる。
「踊りませんか?」
ある日、なこちゃんは、何もかもが嫌になって家出をしました。なこちゃんが持ってる一番大きいキャリーケースを引っ張り出して、洋服や下着、お気に入りのぬいぐるみやスケッチブックも詰め込みました。通帳やクレジットカード、スマホは小さなリュックに入れて、家出をしました。
家出をしたところで行き先はありません。
親戚や友達も、両親もいない、なこちゃんにとって唯一頼れるのは東京に住んでいる友達です。同じラッパーを推してる唯一の同世代。ですが、なこちゃんには、飛行機のチケットの取り方も分からないし、チケット代を払える余裕もありません。
なこちゃんは、沖縄生まれ沖縄育ちです。うちなーぐちとも言われます。
沖縄は貧困に苦しむ家庭が多く、セックスする年齢が他の県に比べて早いので、みんなお母さんは20代そこらです。なこちゃんは一度、妊娠したことはありますが、ストレスで流れてしまいました。それも家出をする一つのきっかけでした。
彼氏には逃げられたけど、この子だけは私が守るって強く思っていたのに、死んでしまったのです。お医者さんは、よくあることだと言っていました。お医者さんの気持ちも分かります。1日に何十人の患者を診て、その内1人くらいは、なこちゃんと同じ人は診てきてるはずです。お医者さんにとっては流産した患者の一人なんでしょうが、なこちゃんにとっては初めて流産した患者なんです。ネットで見ると、なこちゃんと同じくらいの周期で流産した人もいましたが、大多数になれませんでした。いや、なりたくなかったんです。
子を亡くすことが当たり前だと思いたくなかったんです。
なこちゃんは、ひとりっこです。
だからいつも兄弟の存在に憧れてました。妹だったら、私の秘密基地を教えてあげようとか、お兄ちゃんだったら、宿題を教えてもらおうとか、色んな妄想をしていました。子どもは2人は欲しい。女の子と男の子。名前だって決めてました。
でも、子どもは死にました。女の子でした。
「巡り会えたら」
「私ね、安田さんのことが好きかも」
突然の同じ病棟で生活する一人の患者のカミングアウトに驚きを隠せなかった。
「陽性転移」
という言葉がすぐに頭の中に浮かんだ。
陽性転移とは、クライアントがセラピストに対して、信頼や尊敬、愛情などの感情を向けること。大抵は、患者が医者に向けるもので、逆に否定的な感情を向ける場合は、陰性転移と呼ばれる。
ここは精神科だ。
そういうことは決して珍しくはないと素人でも分かる。
普通の、身体的な病や障害を治療するのではなく、もっと深いところにある傷などを治療する科だ。
ここの医者や看護師たちは、患者の話を聞くのが仕事の1つだ。おそらくだが、患者との距離感については大学の座学、実習などで厳しく言われているはずだ。患者と自分は別の人間であること、そうやって線引をして上手くコントロールしないとやっていけない仕事だと彼らも分かっている。ただ、自分の気持ちに寄り添ってくれた経験がない私たちにとっては、ただのカウンセリング中にカウンセラーが発した「それは辛かったね」という言葉が新鮮に感じるのだ。今まで言われたこともない人からしてみれば。自分が感じた辛さを認めてもらえ、それが次第に、好意へと変わる人もいる。
きっと彼女もそのひとりなのだろう。
「人に対して好意を抱く」その感情自体が悪いものではない。ただ、その時の状況や好意を向ける相手や自分が正常にものごとを判断できない状況では話は別になる。
残念だが、彼女の恋とやらは呆気なく終わるだろう。そうじゃなきゃ、ここの医者に対して不信感を抱いてしまう。
私は彼女の恋バナを右から左へと流していった。たまに頷き、リアクションさえ取っておけば問題はないだろう。
幸い、彼女が私が話を聞いていないことに気づかないほど、口は回っている。
「診察室に入る時ドキドキするよねー」なんて言われたが、私からすればドキドキもクソもない。
ここの居場所は悪くは思わないが、やはり入院するレベルに達している人がここにはいるから、少なくとも健康な人なんていない。
私たちが入院している病棟は、大体小学生から中学生までを扱う思春期病棟だ。だからまだ、マシな患者が多い。
「奇跡をもう一度」
何かの間違いで、
何かのアクシデントで、
神様の気まぐれで、
私はあなたに会いたい。
「静寂に包まれた部屋」
コンビニ弁当と、俺。