August.

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「踊りませんか?」

ある日、なこちゃんは、何もかもが嫌になって家出をしました。なこちゃんが持ってる一番大きいキャリーケースを引っ張り出して、洋服や下着、お気に入りのぬいぐるみやスケッチブックも詰め込みました。通帳やクレジットカード、スマホは小さなリュックに入れて、家出をしました。
家出をしたところで行き先はありません。
親戚や友達も、両親もいない、なこちゃんにとって唯一頼れるのは東京に住んでいる友達です。同じラッパーを推してる唯一の同世代。ですが、なこちゃんには、飛行機のチケットの取り方も分からないし、チケット代を払える余裕もありません。
なこちゃんは、沖縄生まれ沖縄育ちです。うちなーぐちとも言われます。
沖縄は貧困に苦しむ家庭が多く、セックスする年齢が他の県に比べて早いので、みんなお母さんは20代そこらです。なこちゃんは一度、妊娠したことはありますが、ストレスで流れてしまいました。それも家出をする一つのきっかけでした。
彼氏には逃げられたけど、この子だけは私が守るって強く思っていたのに、死んでしまったのです。お医者さんは、よくあることだと言っていました。お医者さんの気持ちも分かります。1日に何十人の患者を診て、その内1人くらいは、なこちゃんと同じ人は診てきてるはずです。お医者さんにとっては流産した患者の一人なんでしょうが、なこちゃんにとっては初めて流産した患者なんです。ネットで見ると、なこちゃんと同じくらいの周期で流産した人もいましたが、大多数になれませんでした。いや、なりたくなかったんです。
子を亡くすことが当たり前だと思いたくなかったんです。
なこちゃんは、ひとりっこです。
だからいつも兄弟の存在に憧れてました。妹だったら、私の秘密基地を教えてあげようとか、お兄ちゃんだったら、宿題を教えてもらおうとか、色んな妄想をしていました。子どもは2人は欲しい。女の子と男の子。名前だって決めてました。
でも、子どもは死にました。女の子でした。

10/4/2024, 1:25:57 PM