普段は透明なはずのそれが、まるで鏡みたいに青を映す。
空を閉じ込めたかのようなあまりの鮮烈さにどうしようもなく心を奪われた。
水たまりに映る空
不意に芽生えた感情に驚きと言うにはあまりにも凪を帯びた気持ちを抱いた。
好き、というのはちょっと違う。だけど尊敬にもほんのり違和感を覚える。そして情愛というには複雑すぎる。
胸の真ん中にずっしりと重みを構えるそれを表す言葉は、私の中には存在しなかった。
恋か、愛か、それとも、
いつもはビニール傘ばかりを使うあなたが周りの視線を覆い隠すような黒い傘で迎えに来てくれた日。
雨音だけが響く中で、あなたの唇が私のそれと温度を交わらせた。
傘の中の秘密
雲の切れ間から青空が顔を覗かせて、遠い空に浮かぶ七色がもう雨宿りが必要ないことを伝える。
少し残念な気持ちを隠しながら行こっか、なんて立ち上がる僕の手にほんのり暖かい君の手が触れた。
「もうちょっとお話ししようよ」
君のこと知りたい。
続けて放たれた言葉に断る意味なんてなくて、君の隣に腰を下ろす。
雨上がりの少しひんやりした気温がちょうどよく感じた。
雨上がり
「久しぶり」
記憶の中とまったく違わない柔らかい頬笑みを浮かべたあなたが、少し長くなった髪を揺らして常套句のような言葉を紡いだ。
瞬間、心臓がひとつ大きな音を立てて、それで役目を終えたかのように息がしづらくなる。
忘れていたはずの恋心がまた目を覚ましそうになった。
「久しぶり。卒業式以来だね」
「そうだね」
あなたが私の隣の壁に寄りかかる。
好きだったあの頃と何も変わらない姿に、目頭の奥がじわりとあつくなった。
叶わない想いが遠い記憶の温度に触れようとする。それを押し止めるためにその場を離れようとした私の腕を、少し熱いあなたの手が引き留めた。
どうしたの、と問おうとした声が、見たことのない感情に揺れるあなたの瞳に止められる。
じんわり伝わる熱は、あなたの心を真っ直ぐに写し出しているみたいだった。
意を決したようにあなたが口を開く。
「会いたかった」
「……え」
言葉をひとつ残して何も言えないまま固まる私を、あなたは全てを見透かすような真っ直ぐな瞳で撃ち抜いた。
「言いたいことがあったから」
その瞳に宿る色は、きっとあの時の私と、いや、今の私とも同じもので。
終わったはずの私の恋が、芽吹きの音を告げた。
まだ続く物語