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「久しぶり」
記憶の中とまったく違わない柔らかい頬笑みを浮かべたあなたが、少し長くなった髪を揺らして常套句のような言葉を紡いだ。
瞬間、心臓がひとつ大きな音を立てて、それで役目を終えたかのように息がしづらくなる。
忘れていたはずの恋心がまた目を覚ましそうになった。
「久しぶり。卒業式以来だね」
「そうだね」
あなたが私の隣の壁に寄りかかる。
好きだったあの頃と何も変わらない姿に、目頭の奥がじわりとあつくなった。
叶わない想いが遠い記憶の温度に触れようとする。それを押し止めるためにその場を離れようとした私の腕を、少し熱いあなたの手が引き留めた。
どうしたの、と問おうとした声が、見たことのない感情に揺れるあなたの瞳に止められる。
じんわり伝わる熱は、あなたの心を真っ直ぐに写し出しているみたいだった。
意を決したようにあなたが口を開く。
「会いたかった」
「……え」
言葉をひとつ残して何も言えないまま固まる私を、あなたは全てを見透かすような真っ直ぐな瞳で撃ち抜いた。
「言いたいことがあったから」
その瞳に宿る色は、きっとあの時の私と、いや、今の私とも同じもので。
終わったはずの私の恋が、芽吹きの音を告げた。

まだ続く物語

5/30/2025, 10:51:42 AM