『永遠に』
BL要素あります。お気をつけください。
陳腐な言葉を嫌うあなたが「永遠に愛するから、隣にいてくれないか」なんて頬を赤く染めて言うものだから、思わず笑ってしまった。
空気の揺れに気づいたあなたが頬を染めたまま唇を尖らせる。
「なんで笑うんだ」
「なんででしょうね、やけに可愛らしくて」
それだけだった。
少し震えている手も、どれほど歪めても美しい顔も、月光のような柔らかい優しさだって、全部が可愛らしくて、愛おしかった。
ぐ、と言葉をつまらせるあなたの頬に手を伸ばす。
そこに稲妻のように走る傷だって、あなたを作っていると考えたら愛おしくてしょうがない。
「あなたはそういう言葉好きじゃないと思ってました」
「たしかに好きではないが、しょうがない。お前と永遠に隣にいられるのはこの言葉しかないと思った」
今度はこちらが照れる番だった。
だって、そんな真っ直ぐな言葉。効かないわけがない。
「どんな言葉だって、あなたがくれたのなら宝物ですし、なによりもとから俺はあなたの隣で一生を過ごすつもりでしたよ」
空気が、甘やかに揺れた気がした。
あ、と思ったのも束の間、乾燥した唇にあなたのそれが重なる。
ふ、と吐かれた息が静かに唇をくすぐった。
「永遠に続けばいいのに」
「続かせるんですよ」
あなたの瞳に映る俺は、きっと俺の瞳に映るあなたみたいな顔をしているんだろう。
それだけのことがやけに恥ずかしくて、誇らしくて。誤魔化すようにその手を握って、あなたの名前を呼ぶ。
永遠に続くこの世界は、きっとあなたの隣なら美しく輝くんでしょう。
久しぶり(?)に鯉月書いてみました。
これまた珍しく明治軸ですね。
鯉登さん目線書きたいって言ってたのはどこの誰でしょう。ほんとに。
お互いにお互いが宝物で、生きる意味で、世界の美しさであってほしいです。
『理想郷』
嫌いな人もいない。
勉強もしなくていい。
余計な気も遣わなくていい。
泣いてたって、誰にも怒られない。
そんな理想郷まで、あと一歩。
ビルの屋上から、空を舞うために足を踏み出した。
『懐かしく思うこと』
あなたとの日々が、私の懐かしく思うことにならないように、いつでも今をあなたと生きられるように、その手を握った。
『もう一つの物語』
今までの過去を捨てて、あなたと2人で手を取り合って、何もない世界で、2人のもう一つの物語を始めよう。
この物語だって、もう一つの物語だって、きっとあなたさえいれば、それは私にとってかけがえのない宝物なんだろう。
あなたが選んだ選択肢が最良だって、頭では理解していた。
だけど、この手の中に何も残らなかったという事実がやけに胸を痛ませる。
あなたの笑顔が、あなたの笑い声が、最後に見せた辛さを見せないように必死に隠す表情が、どうしても忘れられない。
どうか、もう一つの物語があるのなら、あなたが私の隣で笑ってくれますように。
『暗がりの中で』
今までの人生は、終わりが見えない、始まりすらも見失った暗闇のようだった。
何もかもを失って、でも、失ったことに気づけなくて。ただひたすらに焦りと寂しさを抱いていた。
そんな日々だったから、突然差し込んだ光にだって、卑屈になって手を伸ばすことができなかった。
でもどんどん光が大きくなって、近づいてきて、いつの間にか俺の方からその光を求めるようになって。ずっと拒み続けたその光に手を伸ばしたとき、あなたは世界の美しいものを全て詰め込んだみたいな表情で笑った。
そんなあなたが、どうしようもなく愛おしかったんだ。
永遠に続くような暗がりの中で見つけたたったひとつの光のようなあなたを失くさないように、俺があなたにとっての光になれるように、あなたの手を握りしめた。