夏の香りなんてものはもう最近は感じなくて、
ただただ蒸し暑いこの夏も、もう気がつけば8月だ。
お盆の時期か近づくし、君はこの謎の虫が鳴いている田舎に帰省するのかな。それとも何でも揃っている東京に居たままなのかな。
君は優しいから、私が一言「会いたい」って連絡すれば、きっと長い長い電車とタクシーを乗り継いでここに帰ってきてくれる。今までだってそうだった。
だけど、なんだか連絡したくない。胸の当たりがモヤモヤして、外は快晴だっていうのに、私の心の中は曇りすぎている。
連絡しないことだって選べる。
ああ、だけど、
8月、君に会いたい。
「遠くへ行きたいな」
白い清潔なシーツの上で、沢山の点滴に繋がれる友は、ポつりとそう呟いた。
「遠くへ、って……」
もうそんなこと耐えられる身体じゃないだろう、と言いきる前に、友は「わかってるさ」とそっぽを向いた。
「最後は笑って死にてえな。そしたらさ、今までのぜーんぶのこと、良かったって思えるかもだろ?」
いつも明るくて、周りの人を放っておけない彼は、道に飛び出した子供を庇って─────
……笑顔だった。あの人の顔。
最後の声は聞けなかったけど、多分、笑い声だったんだろうなぁ。
酸素吸って生きてる
無駄吸い
「なあなあ、」
『小説同好会』と記された部屋で、二人の人間が向かい合って座っている。
片方の男はスマートフォンを弄りながら、
もう片方の女は作文用紙で顔を仰ぎながら。
男は、今尚自分の書いた小説をぞんざいに扱う女へ口を開いた。
「別れ際に相手を引き止める一言ってわかる?」
女は男の方に視線を向けて言った。
「急に何よ。別れ際にねぇ?素直に「行かないで〜」とか「もうちょっとだけ一緒に居たい」とかじゃないの?」
女は言葉を捻り出すような声で答えた。男はそれには「ふーん」とだけ返し、その後得意気にアンサーを発表した。
「俺はお前が1番喜ぶ引き止め方を知ってる」
「え?何よ?」
「これから俺の奢りで高級焼肉店行かない?」
「優勝」