モンシロチョウ/
ちっさいころ言ってた
『もんしろちょうちょ』
久しく見てないから
見たいなって思ってて
そしたらこないだ居たよ
晴れの日
駅前の大理石のオブジェに
鱗粉のまぶさるさらさらした翅(はね)
葉っぱみたいな脈のすじ
細い細い細い触覚
白くて こまやかで
息をしてて
ちっさいころ友だちだったものは
(もう触れもしないけど)
こんなに綺麗な生きものだった
刹那/
いまだけでいい、と思えて
危険な想いを手にする
いまがよければ、なんて
くだらないとわかっていて
頭が子どもにもどったんだ、と
自分を見くだすいいわけをする
なにも変らない、知ってる
だったら
やけっぱちの想いをしっかり握る
武器(えもの)は重みを増す
今夜ぶち壊せなくても
わずかに抉(えぐ)るだけだとしても
諦めるな ずっと抉れ
いつか砕ける どうせなら
十のがらくたと引き換えに
一つのかがやく刹那をつかめ
/たとえ間違いだったとしても
うたた寝に
夢を見た
お告げのようにも思えたが
私なぞの身に
そんなことが起きるだろうか
空は曇りだが
雲は薄墨と白によく光り
私らしい空だった
あれはお告げなのかもしれない
私は
よんぶんのさんくらい、信じることにした
/雫
しりとりのめぐる輪のなかに
ひたり、と 沈黙が落ち
耳の底に氷がひとかけ溶けた気がして
誰かが「幽霊だ」などと叫ぶので
ちりぢりになってしまう
ずん、と地がひびき
人びとは足を止め不安に見かわす
列車は止まり 踏切は鳴り続け
それら全てをうつして
壊れた水道の口から一滴がふくらむ
くちびるに落ちる雨粒は
広い天から
どうやって私を目がけ
墜落(おち)てきたのだろうと
いつも思うが
思いつくことはどれも空虚で
せめてうたを紡ぐこの唇だけは、と
天から落たもので湿(しめ)して濡らして
今日もこればかりの
しずくうた。
/もしも未来を見れるなら
のぞき穴のついた白い扉がひとつ
どうするかな
のぞく?
あける?
私はしばらくドアから遠ざかり
ちらちらと伺う
またしばらくして
耳をつける
扉の隙間から漏れ聞こえる音は
街の雑踏に似ていて
波の音、
からだの中で聴く
鼓動にも聞こえて
私はそっと身を離す
のぞき穴のついた白い扉がひとつ
暗くなると
扉の下に細く細く光がまたたく
私は……
のぞかない
のぞかない