「静寂の中で」
そこは森の奥にあるブルーの湖
風がそよぐと木々が囁き
ひっそりとした場所にある
森の奥の秘密の場所
私はそこに鍵をかけてある
誰も招き入れず
誰も届かなかった場所
自分が見つけた生命の水
湖を覗くと本当の私が水面に写る
今日の私は泣いていた
湖に写る私は泣いていた
そして、湖から
私の分身が立っていた
私は「祈り」と名付けている
もう一人の自分を見て
私は今日も
祈っていた
幸せになりたい
長らくそう思って来たけど
私は何事もない日に
生きているだけでも
充分頑張っている
生きている事そのものが
私なんだと思う
「燃える葉」
今年の紅葉はどんな景色だろうかと
考えながら目の前の
真っ赤に燃えるような彼岸花を僕は撮っている
最近、出会えた君の笑顔や
君の行動力
知らない世界へ飛び込んでいく勇気
君がふと見せる寂しさを
僕は思ったりした
真っ赤な彼岸花は君を思わせた
君は外国でエンターテイメントの世界で生きたいと
日本からアメリカヘ飛んだ
僕は君に恋をしていて
そんな君を見守る事にした
日本を忘れて欲しくなくて
こうして日本の花や景色を撮っては
LINEで彼女に送っている
昨日の彼女はちょっと落ち込んでいたから
僕は彼岸花を撮りに出かけた
彼女は喜んでくれるだろうか
彼女はアメリカでトライ&エラーを繰り返しつつ
毎日過ごしていた
エンターテイメントの世界も厳しく
不安も多くあるようだった
そして、今年の秋は久しぶりに
彼女が日本に帰国し
僕と会う事なっている
紅葉の秋に
情熱のままに行動する彼女
僕は彼女と会える秋が待ち遠しい
彼女はLINEで送った
彼岸花の写真をとても喜び
気に入ってくれた
彼女も僕達が会える秋を楽しみにしているようだ
今年の秋
僕は彼女に指輪を渡そうと思っている
「moonlight」
ドビュッシーの曲に「月の光」と言う曲がある
私がとても好きな曲
そして、ある情景を思い出す曲
私はその時
一人で暮らしていた
両親から離れ
一人で暮らすのは楽しかった
ある夜、たまたま散歩に行ってみた
シーソーやブランコがある公園まで行ってみた
近づいてみるとその公園から
静かな音楽が聴こえる
聴いてみたら「月の光」だった
空にも月が光を放っている
よく見てみると
ベンチの横で踊る女性がいる
月の光で踊るなんて珍しい人だ
私は声をかけてみた
「月の光で踊るのは楽しいですか」
「あ、迷惑でしたか」
「いいえ、月の光が好きなもので
ここのベンチで見ていて良いですか」
「はい、あまり上手くない踊りですが」
彼女の月の光のダンスは自己流だと言う
彼女の踊りは流れるような手の動き
脚の動きだった
何だか月の光も聴いていたかったけど
彼女の踊りもずっと見ていたかった
彼女は趣味で踊っていると言う
僕は彼女を見ていたいな
彼女のこれからを見ていたいなと思った
月の光の中
彼女は舞い続けていた
「誰か」
誰かの優しさが一人の心に響き
一人の優しさがもう一人の心を温める
二人が心を寄せていると
誰かが「入っても良い?」と
声をかける
三人が話していると
もう二人がやって来て
賑やかな会話になった
最初の一人の優しい声かけが
落ち込んでいた心を助け
その輪が広がった
一人の行動は
小さく見えても
誰かの心に火を灯す時
それは、ささやかな灯火になる
心を温めるには
人と話すのが良いらしい
優しい人との会話は
癒やしになる
「遠い足音」
その時期、私は恋をしていた
アパートでひとり暮らしをしていた頃
2つ離れた部屋の男性に
始まりは
私のいる部屋の前で
偶然会って挨拶した時だった
彼はスーツを着て
出勤するところだった
私も出勤するところで
朝、一緒にエレベーターに乗った
エレベーターの中で
私は話しかけてみた
「出勤前ですか」
「そうなんです」
それ以来、アパート付近で会ったり
アパートで鉢合わせすると
少し話をするようになった
私は部屋にいる時も
彼を意識し始めた
あの足音は彼だ
今日は日曜日だから趣味の
サイクリングかな
私は片想いが好きだ
両想いになると恋の魔法が解けて
幸せがどんどん減っていくカップルと
ある幸せをずっと温めて
大事にしていくカップルと分かれると思う
私は恋愛は好きだったけど
付き合うようになったら
一緒にいる事に慣れてしまい
減点式で恋の気持ちが目減りするのは
辛かった
片想いでいい…
そう思うようにもなっていた
そんな日の朝
私は早く起きてしまい
時間を持て余した
外に出て
ベランダから昇る朝日を見ていた
朝の綺麗な空気は新鮮で美味しい
私は目一杯空気を吸った
すると
「○○さん、○○さん」
どこからか私を呼ぶ声がする
「おはようございます」
2つ先の部屋の彼もベランダから
起きていたらしい
「綺麗な朝日ですよね
今朝は早く起きちゃって」
「僕もなんですよ
早く起きてしまいました」
二人で見た朝日は
いつもと変わらない朝日だったけど
私には特別な朝になった
私は何だか
彼を好きな気持ちを閉じ込めておく
自信が急になくなった
好きな気持ちが目減りしてもいい
そんな気持ちにもなった
その日の朝は念入りにメイクをした
彼に告白する為だ
その日の朝
二人で駅まで歩いた
そして、LINEを交換して
私は言った
「ずっと前から好きでした」
「僕も好きでした
お付き合いしてください」