「遠い足音」
その時期、私は恋をしていた
アパートでひとり暮らしをしていた頃
2つ離れた部屋の男性に
始まりは
私のいる部屋の前で
偶然会って挨拶した時だった
彼はスーツを着て
出勤するところだった
私も出勤するところで
朝、一緒にエレベーターに乗った
エレベーターの中で
私は話しかけてみた
「出勤前ですか」
「そうなんです」
それ以来、アパート付近で会ったり
アパートで鉢合わせすると
少し話をするようになった
私は部屋にいる時も
彼を意識し始めた
あの足音は彼だ
今日は日曜日だから趣味の
サイクリングかな
私は片想いが好きだ
両想いになると恋の魔法が解けて
幸せがどんどん減っていくカップルと
ある幸せをずっと温めて
大事にしていくカップルと分かれると思う
私は恋愛は好きだったけど
付き合うようになったら
一緒にいる事に慣れてしまい
減点式で恋の気持ちが目減りするのは
辛かった
片想いでいい…
そう思うようにもなっていた
そんな日の朝
私は早く起きてしまい
時間を持て余した
外に出て
ベランダから昇る朝日を見ていた
朝の綺麗な空気は新鮮で美味しい
私は目一杯空気を吸った
すると
「○○さん、○○さん」
どこからか私を呼ぶ声がする
「おはようございます」
2つ先の部屋の彼もベランダから
起きていたらしい
「綺麗な朝日ですよね
今朝は早く起きちゃって」
「僕もなんですよ
早く起きてしまいました」
二人で見た朝日は
いつもと変わらない朝日だったけど
私には特別な朝になった
私は何だか
彼を好きな気持ちを閉じ込めておく
自信が急になくなった
好きな気持ちが目減りしてもいい
そんな気持ちにもなった
その日の朝は念入りにメイクをした
彼に告白する為だ
その日の朝
二人で駅まで歩いた
そして、LINEを交換して
私は言った
「ずっと前から好きでした」
「僕も好きでした
お付き合いしてください」
10/2/2025, 9:27:30 PM