安らかな瞳
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「○○県○○市役所ですが…」
その連絡が来て僕はここで正座をしている
生き別れの父はホームレスとなり冬の路上で死んでたらしい
断っても引き取りを求める
違うかも知られない旨を伝えると火葬前に確認がてら
来いとのこと
死んでからも迷惑なやつだ
僕とお袋は普通の暮らしを望んだ
町工場勤めの親父は真面目だった
親父の様になりたいとさえ思っていた
だが不況の煽りを受け受注が減りリストラにあった
それからはどことも変わらず仕事は無し
現実から目を背ける為にアルコール溺れた
次第に手を上げるようになりお袋と家を出た
僕らを見つけると金を要求し次第に居座り耐えられず
二度目は県外に出た
身内も知り合いも全て断ち母は苦労したに違いない
数年前に亡くなりお袋の実家で葬儀を行った時
あいつも来て金の無心をした
出したくなかったがワイシャツを脱ぎ柄を出した
「殺されたくなかったら二度と近づくな」
目を見開き慌てて走り去っていったのが最後だった
お袋には苦労をかけた分
楽させたいと思った僕はヤクザではないが
人に言えないことでも稼いだ
何かあった時のことも考えグレーな部分に住み着き
黒にも白にも人脈を作っていった
もちろん修羅場もあり死にそうな目も見てくぐりぬけてきたのにあんなに怖かった親父があの言葉で消えたのを見て
情けなくて涙が出た
…物思いに耽っていると火葬が終わった
会葬者はもちろんいない
骨は拾いたくないと拒否し僕は骨壷を受け取り港に向かった
港に到着し骨壷を海に捨てた
着水時に蓋が開き中身が浮いたが波に揺られ海中に消えて行った
お袋は死の瞬間幸せだったのだろうか?
こんな息子で良かったのだろうか?
親父にはそんな気持ちもなく安らかになんて許さない
…パンッ
パンッパンッ
胸から血が出ている
あー
そういや使ってたやつがやらかしたんだっけ?
こっちに来なきゃ良かったな…
やっぱ親父は死んでからも迷惑な奴だなと
海に落下し安らかな瞳はいつまでも空を見ていた
もっと知りたい
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高校2年
今は3月もう少しでクラスは変わる
友達はいない
進学希望だけど特待が取れないから勉強以外何もしない
話しかける者もいない
名前だけが存在するペーパーカンパニーの様な感じだ
参考書を読む
反復すれば多少頭には入る
疲れたら小説を読む
「何読んでるの?」
幻聴か他の誰かに言ったのだろう?
「無視?」
頁から目線を上げると学年で可愛いと評判の子が僕に聞いてきた
「僕に聞いてる?」
「他に誰がいるのよ?」
笑いながら言われたので渋々表紙を見せて教えてあげた
「飛行機とか病院とか待ち時間退屈だから読もうかな?って」
どうでも良いが僕の時間を取らないでくれ
無視してやった
この日を境に色々話しかけられた
1番驚いたのはガッツリ昼寝して涎まで垂らして目を覚ますと背中にブレザーがかかっており袖が口元にきていたので
汚してしまった
「これ誰の?」
「私だよー
気持ちよさそうに寝てたから」
「ごめん汚しちゃった」
「気にしなくていいよ
勝手にやったことだから」
そのまま羽織ってた
そんなことやられたことも言われたこともなかった
恋とは違うと自分に言い聞かせ彼女のことをもっと知りたいと思った
進級の時に願わくば同じクラスにしてほしいと
淡い気持ちを抱いた冬とも春とも言えない季節の
素直になれないそんな話
今日にさよなら
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波の音に癒される
究極のブラック企業の公務員を辞めて
貯金と退職金を使って無職で生きている現在
夜は何も考えず砂浜に流れ着いた丸太に座り
特大のクーラーボックスに入れて冷やした瓶ビールを
眠気が来るまで飲み続ける
季節の変わり目の風は不思議な生暖かさを含み
何故か心地よい
たまに警察も来るがゴミはまとめているし
飲酒運転する訳でもないので
最近は生存確認といったところか
眠気が来る
そろそろ23:50だ
自分のバンの荷室を開けクーラーを積み
足を投げ出して横になる
時計を見ると23:59
今日にさよなら
さよならの対義語って何だっけ?
そんなことを考えながら目を瞑る
今日なのか明日なのかわからない曖昧な時間に
気が向いたら真面目になると考えながら
どうでもいい残酷な世界におやすみと言い
眠りに落ちる
誰よりも
今は一人
昔は婿入りして妻がいて子どもも二人いた
妻の家族にメンタルを削られて
収入も時間も取られ
入眠障害を起こして突然妻に離婚を切り出され
養育費は払えないからと子どもの為の積立を全額渡した
もちろん共有財産の権利を説明してだ
実家はない
身内もいない
銀行に融資をお願いして2か月して入金があり家を出た
言われ続けたのはいつ出てくの?
だった
三年経たない内に元妻から養育費はどうなってるの?
と言われた
積立は?
との問いにあれはお金と言いませんと言われた
怒りを抑え共有財産の権利と
金の話をするなら弁護士を通せと伝えた
そうなれば半額返金は確定だから用意しとくようにとも伝えた
それから一切連絡はない
子どもたちも大きくなってるだろう
携帯の番号も教えてきたが連絡はない
陰で何を言われてるかもわからない
それでも
誰よりも幸せになってほしいと思ってる
待ってて
ここで待ってて
お母さんはそう言って出かけた
だから僕は待った
お腹が空いても寂しくても寒くなって暑くなって
それでも誰も来なかった
…トントン
家の中の明かりが点かなくなって
初めて人が来た
お母さんだ!
玄関を開けると知らない人が二人
お母さんは?
僕は待っててと言われたことを伝えた
来た人のうちの一人は色々聞いてきた
もう一人は電話してた
僕は車に乗せられ何処かへ連れて行かれた
お兄ちゃんやお姉ちゃんがいて
美味しい食べ物も出てきた
何日待ってもお母さんが来ることはなかった
-30年後
母だった人が亡くなったと行政から連絡が来た
結局一人だったらしい
財産らしいものも無く骨壷と位牌を
引き取って欲しい連絡だった
受け取った僕は懐かしいけど苦しい思い出の
町を見下ろせる山を登った
頂上付近に穴を掘り位牌を入れて埋めた
その上に骨壷を開け中身を撒いた
ここで待ってて
僕は置き去りにした
あの日の家の中に置き去りにされた思い出と共に
僕は母を見捨てた