今日にさよなら
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波の音に癒される
究極のブラック企業の公務員を辞めて
貯金と退職金を使って無職で生きている現在
夜は何も考えず砂浜に流れ着いた丸太に座り
特大のクーラーボックスに入れて冷やした瓶ビールを
眠気が来るまで飲み続ける
季節の変わり目の風は不思議な生暖かさを含み
何故か心地よい
たまに警察も来るがゴミはまとめているし
飲酒運転する訳でもないので
最近は生存確認といったところか
眠気が来る
そろそろ23:50だ
自分のバンの荷室を開けクーラーを積み
足を投げ出して横になる
時計を見ると23:59
今日にさよなら
さよならの対義語って何だっけ?
そんなことを考えながら目を瞑る
今日なのか明日なのかわからない曖昧な時間に
気が向いたら真面目になると考えながら
どうでもいい残酷な世界におやすみと言い
眠りに落ちる
誰よりも
今は一人
昔は婿入りして妻がいて子どもも二人いた
妻の家族にメンタルを削られて
収入も時間も取られ
入眠障害を起こして突然妻に離婚を切り出され
養育費は払えないからと子どもの為の積立を全額渡した
もちろん共有財産の権利を説明してだ
実家はない
身内もいない
銀行に融資をお願いして2か月して入金があり家を出た
言われ続けたのはいつ出てくの?
だった
三年経たない内に元妻から養育費はどうなってるの?
と言われた
積立は?
との問いにあれはお金と言いませんと言われた
怒りを抑え共有財産の権利と
金の話をするなら弁護士を通せと伝えた
そうなれば半額返金は確定だから用意しとくようにとも伝えた
それから一切連絡はない
子どもたちも大きくなってるだろう
携帯の番号も教えてきたが連絡はない
陰で何を言われてるかもわからない
それでも
誰よりも幸せになってほしいと思ってる
待ってて
ここで待ってて
お母さんはそう言って出かけた
だから僕は待った
お腹が空いても寂しくても寒くなって暑くなって
それでも誰も来なかった
…トントン
家の中の明かりが点かなくなって
初めて人が来た
お母さんだ!
玄関を開けると知らない人が二人
お母さんは?
僕は待っててと言われたことを伝えた
来た人のうちの一人は色々聞いてきた
もう一人は電話してた
僕は車に乗せられ何処かへ連れて行かれた
お兄ちゃんやお姉ちゃんがいて
美味しい食べ物も出てきた
何日待ってもお母さんが来ることはなかった
-30年後
母だった人が亡くなったと行政から連絡が来た
結局一人だったらしい
財産らしいものも無く骨壷と位牌を
引き取って欲しい連絡だった
受け取った僕は懐かしいけど苦しい思い出の
町を見下ろせる山を登った
頂上付近に穴を掘り位牌を入れて埋めた
その上に骨壷を開け中身を撒いた
ここで待ってて
僕は置き去りにした
あの日の家の中に置き去りにされた思い出と共に
僕は母を見捨てた
冬晴れ
ぼくには幼馴染がいる
今現在猛吹雪の中で
隣を歩いてる訳だが…
ねぇ?
…ん?
今の会社入ってどれくらいだっけ?
8ヶ月くらいかな?
なんで?
そろそろ気になる女性できたかなと
いやー
まだ覚えること多くてそれどころじゃないよ
やっぱりなー
でもさー
食事には誘われたよ
あー仲良いメンバーでとか?
それが女性の上司と二人きりなんだよねー
はっ!!!?
あんまり調子に乗るなよ
そういうとズカズカと歩き出した
その瞬間
風が強まり雲の切れ間から太陽が顔を出した
陽に照らされた幼馴染はとても綺麗だ
ぼくの言葉にできない言葉
ぼくは彼女が好きだ
他の女性は目に入らない
待ってよー
いつも通りの空気でいつも通りの展開
ぼくはいつもこの空気が好きだ
走るぼくを横目に太陽は上機嫌に空気を暖めだした
雪の静寂
頬に触れた雪は淡い熱を帯び液体へと姿を変えてゆく
しかし真冬の山の中は自分の耳鳴り以外は何も聞こえない
文字通り誰もいないからそうなのだが…
麓の小さな山村では収穫期に熊が出るようになった
俺もそうだが狩猟ができる者は行政により全員駆り出された
そのせいもあって一匹また一匹と熊はその頭数を減らしていった
雪も疎になってきた頃
一頭だけ大きな熊が出没するようになった
この時期に出没すると冬眠せずに目の前にある食料を食い尽くす傾向にある
…人間も含め
この小さな村では厳冬期までに十七名が襲われた
幸いなことに死亡者はいない
皆口を揃えて言った
「白い熊だ」
と
俺たちは四人で組み追い込みをかけた
雪山の中で気は張ってたが野生の感性に負けた
アルビノで見えないのもあり仲間が二人襲われた
多分即死だ
俺は撃ったが当たっても動きが止まらない
二発目を打ち込んだが向かってくる
三発目を外し俺は弾を込めながら離れていた最後の一人に叫んだ
「逃げて人を寄越してくれ」
俺は直後に撃った
心臓に確実に当たったが振りかぶった腕は止まらない
右肩から左脇腹にかけて抉られた
白い熊も俺も胸を赤く染め仰向けで雪に沈んだ
猟銃を扱うようになって聞こえる耳鳴りだけが俺には聞こえていた
…頬に触れた雪は淡い熱を帯び液体へと姿を変えてゆく
雪が紅く染まってきた
耳鳴りが小さくなっていく
俺にとって初めての無音の世界で舞い散る雪を眺めながら
灯火は消えそうになっていった