8/20/2024, 12:16:20 PM
記憶がいる。私は行くなと言うが、記憶は私に小さな水晶の欠片を渡して微笑む。もう二度と戻るつもりはないそうだ。記憶の流れ着く浜辺とは、そんなに良いものなのだろうか、私とここにいるよりも。
記憶は首を横に振る。欠片を私に握らせる。それはひんやりとして、やがて体温に馴染んでいく。忘れたことさえも、忘れてしまうのだ。行くな。どこにも行くな。お前の魂なんか貰っても、何も嬉しくない。
記憶は掌の中で初めて口をきいた。
私の教えた詩だった。
「さよなら、どうかお元気で」
8/20/2024, 9:32:19 AM
空は寒色から暗色になる。空がレイヤーであること、一枚のポリゴンではないことに新鮮な驚きを覚える。
空はなんの役割も持たない。私達が利用するのは太陽や雨雲だけで、空は利用しない。空は空間。色づいているので、物らしく見えるだけだ。あるいは幼少期のお絵かきの中で作られた偏見のせいだろうか、空間に色はないのに、水色で塗らなければいけなかったから。私達は空に触れることが無い。空はあるが、存在しない。
多くの憧れは、そのようなものだ。名前のつけられたある地点を目指すと、その地点は無い。確かに自分はその名前の位置にいるのに、何も掴めた気がしない。床に雲が敷かれて初めて自分が空にいることを知る。しかし空は依然として頭上にある。より暗く、より境界は曖昧になっていく。どこまでが空なのだろう。誰かが「そこが空だ」と言えば、おそらくそうなる。
なら、私達は空にいる。