4/21/2024, 10:12:32 AM
雨の雫が、窓を濡らした。
雫が落ちていく音を、私は愛している。
1度きりのオーケストラのように、雫が世界を奏でる。
まるで贅沢な音楽を聴いているかのようで、私は雨の音を愛している。
雨の多い土地に生まれた。雷鳴と雨の音を子守唄に育ち、私は今を健やかに生きている。
雨ゆえの災難も多々あれど、それでも私は雨を愛した。
まるで、愛しい伴侶のように雨を慕う。
一つ一つの雫を懐(おも)う。それは土へ染み渡り、水の恵みとなるだろう。
4/21/2024, 10:06:05 AM
透明な世界を彼女は歩いていた。
ただ、澄み渡る水面の上をゆっくりと歩くように。
喧騒もなく、人の行き交いも無い。
琴線に触れる旋律も、愛を囁く声も。
その耳は静寂のみを捉えている。
その視線は虚無を見ていた。
だが虚しさよりも温かさを湛えた慈愛さえ感じる凪いだ眼差しであった。
何も無い世界を見守る慈母の瞳が透明な世界を見ている。
鼻腔を楽しませる香りも無い。
美味しそうな匂いも、不快な悪臭も無い。
懐かしささえどこかへやって、彼女は香りというものを感じない。
透明な世界を、彼女は歩いていた。
何もいらない。
なぜなら、彼女は既に満ち足りていたから。