〔おたがいさま〕
僕は写真を撮るのが苦手。
何回やっても逆光になってしまう、なんでだろう。
彼女はそんな僕にいつも笑いかけてくれて、
上手く撮れるまでピースもしてくれる。
もちろん、写真は上手くなりたい、けど、
彼女の笑顔をずっと見ていられるこの時間が
結構幸せだったりもする。
彼は写真を撮るのが苦手。
いっつも逆光になっちゃう、かわいい。
彼があたふたしながら私のまわりをくるくるするのが
とっても愛おしい。
逆光だからむしろ彼のことがよく見える。
上手に撮れた時にちっちゃい子みたいに喜んでカメラを見せてくるのをもっと楽しみたいから、
上手にならなくても良いよって、
つい意地悪言ってしまう。
#逆光:13
〔弱虫〕
本番前日の夜はいつも変な夢を見る。
ミスをしたり、絶対にしないような忘れ物をしたり、
会場に行く途中で迷子になって遅刻したり。
不安とかプレッシャーとか、
自分に耐えきれない程重圧をかけると、
崩れて溢れた分がこうやって夢にでてきて、
さらに私を苦しめる。
うまく寝れない。
けど、貴方に
「こんな夢見ちゃったんだよねー、ほんと困っちゃう」
って作り笑いをすると、
「大丈夫。上手くいくように頑張ろうねっ」って、
1番欲しい言葉で安心させてくれる。
ほんと、敵わないな。
今度は、今度こそは、
貴方が不安な時に寄り添ってあげたい。
そんなことを願いながら寝た夜は、
案外幸せな夢を見たりとかするものだ。
「おはよっ!あのね、!こんな夢を見たんだ・・・!!」
#こんな夢を見た:12
〔子犬〕
「ねえねえ」
「んー?なーにー?」
「光速で移動してれば実質タイムマシーンでしょ?」
「相対性理論の話?実は相対性理論ってね・・・」
彼が隣でこういったような話をしてくれている時間がなによりも楽しい。
私の知らないこと、理解するのが難しい話だって一個一個説明してくれる。
同学年だとは思えないくらい博識でいろんなことを知ってる。
すごく難しい話をしてるのに、隣を歩く彼の目は少年そのもので、目の輝きはまるで子犬のよう。
高校生2人が住宅街を歩く。
ある人には恋人、ある人には先輩後輩、そしてある人には兄妹に見えるであろう、そんな距離感。
公園に向かう足取りは軽い。
「公園も楽しいけど、歩いてるこの時間がお気に入りなんだー」
とかは恥ずかしくて言えないけど、
公園が近づくと思わず歩くスピードを落としてしまう。
彼は歩幅合わせてくれて、また好きになる。
この時間が続けば良いのに…
そう思いながらまた質問する。
「ねえねえ、タイムマシーンがあったらどこお散歩いきたい?」
#タイムマシーン:11
〔告白未遂〕
その夜、初めて人に対して「大好き」と言った。
なんとなく恥ずかしくて、友だちにも言ったことなかったのにな…。
辛いことがあった日。
悔しい思いをした日。
仲間と結果を見た日。
忘れられないあの日。
仲間たちと別れた私はあの人と2人で電車に乗った。
泣きそうで、けど私は人前で泣いたことがほとんどなくて、電車でなんて尚更できっこなかった。
私は最寄りで降りることができなかった。
帰りたくなかった。
どこか静かな所に逃げたかった。
公園に誘ってもらって、夜2人でベンチに座った。
街灯は遠く、隣に座っていても顔すらよく見えなかった。
私は夜空に見えた朧月に向かって話し始めた。
いつの間にか泣いていて、
右目から一筋涙の跡が残った。
最初は相槌を打っていたのに静かだな、と、
ふと隣を見るとあの人もまた泣いていて、。
夜の公園。本音を曝け出しあった。
悔しさに泣いた。
また駅に戻る途中、悔しさを吐き出した後に残った感情をうっかり口にしてしまった。
本音を言えたからこそだったのだろう。
「大好き…。」
耳元でそっと囁いた。
ぎゅっと抱きしめられた時のあたたかさは、
冬であることを忘れるようだった。
1年と少し前のあの日。
私にとって特別な夜。
またあなたと一緒に過ごしたい。
#特別な夜:10
〔普通〕
—ヒトは海の底で暮らすことはできない。
空気無いし。
水圧で潰れちゃうし。
肌ふやけちゃうし。
魚は山の上で暮らすことはできない。
水無いし。
大気圧で内臓引っ張られるし。
肌カピカピになるし。
私が普段の生活で普通だと思ってることも、
きっと誰かにとっては普通じゃないんだろうな。
私はヒトの一生しか過ごすことができないから、
ワタシの一生しか知ることができないから、
相手のことを理解する努力だけは続けてみたい。
…海の底だってなかなか良いところのはずだから。
久しぶりに夜1人で歩くと、
ついこんなことを考えてしまう。
ツンと鼻を刺激する空気が、
まだ冬真っ只中であることを伝えてくる。
嗚呼、語り合う友ってかけがえのない存在なんだな。
見上げた空は、深い海の底の夢をみていた。
#海の底:9