君の声は鈴のようだった。
ころころしていて、とても可愛い。
君の顔はひまわりのようだった。
暑さなんて忘れるほどの眩しさ。
君の肌はマシュマロのようだった。
すべすべで、柔らかかった。
君の手料理はどれも一流シェフのようだった。
本当に美味しかったんだ。
なのに今この体で覚えているものは、
今あげた中には一つもない。
唯一残ってるものは、君のやさしい香りだけ。
何はこれすら消えてなくなる。
忘れたことすら忘れてしまう。
そうして僕もまた、誰かの中から消える。
けたたましい鐘の音が脳髄に刺さった。
生暖かい地面へ足を踏み出した。
当たり前の味を無心に頬張った。
無心に衣を取り替え、乱れをとかした。
人混みに混ざり、暑さがより一層身を包んだ。
無機質な機械音が喧騒の中に響き続けた。
いつもの定位置で足を止めた。
気のせいじゃない、確かな脈拍。
意を決して顔を上げる。
向かいのホームには、優美な青年。
狼の子どものようだった。
名も知らない彼を、毎朝目に焼き付けてる。
決して交わらない視線は、熱を帯びた。
深い海に落ちていく
記憶は遠のいていく
突き刺す温度に包まれている
涙は今凍りつき、視力をも奪っていく
何も見えない、これが罰なんだ
あなたはとってもわかりにくい。
そしてとってもわかりやすい人。
嘘つきで、正直者。
真面目で、怠け者。
好き嫌いがなくて、
好き嫌いが激しい。
甘えん坊なのに、
変に冷めてる。
そんなあなたを、
あなたに適したタイミングで、
私が毎度裏返していくの。
本当は嘘をつきたくない。
それなら本音を言わせてあげる。
真面目に生きたくない。
それなら自堕落に笑わせてあげる。
本当は甘えたい。
それなら思う存分甘えさせてあげる。
何度あなたが本当と逆を着ても、
何度でもわたしが裏返してあげる。
大空を自由に飛ぶ鳥のように、
私も自由自在に飛べたならよかったのに。
もしも私が飛べたなら、
まずは安全かどうか確かめるよ。
もしも私が飛べたなら、
少し高い段差から羽ばたいてみるよ。
もしも私が飛べたなら、
あなたに様子を伝えるよ。
もしも私が飛べたなら、
もう少し高い段差から飛んでみるよ。
もしも私が飛べたなら、
あなたの元へ羽ばたいていくよ。
全力で羽を動かして、
風を切って、風を感じて、
冷たさに浮かれながら、
あなたを思い浮かべて、
あなたで頭をいっぱいにして、
あなたへの愛を口遊みながら、
ウキウキしながら飛んでいくわ。
飛んできた小さな小さな小鳥が目に入ったら、
その両手を広げてわたしを迎え抱いて。
わたしはあなたの頬にキスをするわ。
そしてあなたの頬に擦り寄るわ。
あなただけの歌声を届けるわ。