フィルター
伝えたいことがある
でも頭の中の言葉を全て伝えると何が言いたいのかわからなくなってしまう。
だから選別するのだ。140字のフィルターで。
梅雨すっ飛ばして夏!気配どころか実体が押し寄せてきてる〜!
「お前のこと、嫌いだよ」
二人での通学路で、僕は立ち止まって吐き捨てるように言った。するときみは振り返って、
『どうしたの?』
とぎこちない話し方で問いかけた
「靴紐ほどけた」
しゃがんで靴紐を直す振りをした。地面に向けている僕の顔はとてもきみに見せられたものではない。
「嫌いだ。お前と仲良くなんてならなきゃ良かったんだ」
聞こえないきみには絶対に届かない告白。
届けてはいけない告白は、にじんだ視界の中で地面に吸い込まれていった。
もしも君が野花だったら
僕は蜜蜂になって花粉をつけて君の手伝いをする
でも帰る場所は君じゃない
もしも君が動物だったら
僕は君に食べられて君の栄養になれたらいい
でも君を見ていることができない
僕の努力次第で君の一番側にいられて、
君の人生を眺めることが出来て、君の助けになることができる、
人間のままが一番いいかもなぁ。
マッチをまた1本、燃やす。
そうすると暖かな家の中でごちそうと優しい人たちが笑顔で迎えてくれた。
消える。またもう一本。
なんとなくわかっていた。マッチを燃やし尽くす頃にはわたしは凍え死ぬのだろう。でも、家に帰るくらいならこの暖かなな夢の中で眠ってしまったほうがいいのかもしれない………。
冷えきった冬の夜、売れ残りの薪を背負いながら帰宅中の少年は、道の隅でぼんやりと小さな灯火を眺めている少女を見かけた。
目の焦点があまりあっていない。こんな寒い中あの格好で何時間いたのだろう。誰が見ても凍えきっていた。
道を歩く大人たちはそんな少女には目もくれず足早に去っていく。少年は思わず声をかけた。
「なぁ、そんな格好じゃ死んじまうぞ。さっさと家に帰んなよ。乞食だってもっとましな寝床にありついてるぜ」
少女はそれでもぼんやりとマッチの火を見つめている。無視された事にムッとした少年はその火をふうっと吹き消して、
「そんなちっぽけな火じゃ鼠でも暖まれないだろうな」
火を消された少女は少しの間マッチを見つめていたが、突然ハッと気がついたかのように顔を上げた。
それから少年に何か話しかけるように口をもごもご動かしたが、寒さのせいで歯の根も合わないようだった。
やがて少女の目は潤み、目じりから流れた一滴がツウと頬を伝い、すぐに薄く氷を張ってしまった。
「はぁ、しかたがないなお前」
少年は呆れたと言うように大きなため息をこぼすと、着ていた分厚いコートを少女を羽織らせ、彼女の首から目の下あたりをマフラーでぐるぐる巻きにした。
それから背負っていた薪を2束ほどと木の皮を少女の目の前に置き、
「暖ってのはな、こうやってとるんだよ」
少女の持っていたマッチ箱をひったくると、マッチを一本つけて、薪の上の木の皮に火をつけた。それから器用に火を大きくして、あっという間に立派な焚き火を作り上げてしまった
少女の目からとめどなく涙が溢れた。しかし今度はそれが凍ることはなく、マフラーに染み込んでいった。
「おい、なんだよ。なんで泣くんだよ」
どうして良いかまるでわからない少年は帽子や耳あて、手袋まで与えてしまったが、少女はさらに泣くばかりだった。
困り果てた少年が、さらに2束の薪を足した頃、少女はようやく話し始めた
「わたし、このまま眠ってしまわなくて良かった。起こしてくれてありがとう。あなたはわたしの王子様よ」
真っ赤な目と頬でにっこりと笑いながら言うもんだから、彼にはまるで灯火のように見えた。
「さしずめお前は眠り姫か白雪姫か?そんな赤い顔で、さぞ林檎がお似合いだろうな」
「もう手遅れだろうが、風邪を引く前にさっさと帰んな。こんな夜中にお前のようなの一人じゃ、連れて行かれても知らないぜ」
少年は懐から袋を取り出すと、マッチ代だと言って少女に押し付けて、走り去っていった。
少女は焚き火が燃え尽きるまで眺めていたいと思ったが、少年が去ってすぐに火が消えてしまったので、家に帰った。
そっとドアノブをひねると、父は酒を抱えたまま眠っており、少女はそっと、『マッチ代』をテーブルに置くと、そのまま自分の布団にくるまった。
わたしは夢を見ていた。たぶん覚めない夢を。あのとき彼が声をかけてくれなかったら永遠に。
これは奇跡だ。マッチを持ったわたしを薪を持っていた彼が気にかけてくれた。防寒具をくれて火まで起こしてくれた。
彼はわたしのせいで風邪をひいていないだろうか。またあそこにいたら会えるだろうか。わたしの王子様。
彼がくれた防寒具と布団に包まれながら、暖かな家屋の中で彼と一緒に食事をする夢を見た。
明くる日。少年は熱を出し、薪の売上と防寒具はどうしたのかと母親に問われながら、半分眠りかけていた。
熱に浮かされながら、森の中で焚き火を囲んで、
林檎のような頬をした少女と、
まるで王子と姫のように優雅に踊る夢を見ていた。