修学旅行でのタクシー行動。
その時、グループの子たちが話してた。
『最近○○が私の事束縛してくる』
『○○が私が他の男子と話すと見てくる』
『○○に告白しようかな』
とか何とか。
男の子って嫉妬深いもんなのかな。
思い出せば何となく頷ける話だった。
でも、その時のわたしは乗り物酔いで思考が回らず。
『青春だなあ』と思いながら聞き耳をたてていた。
可愛い恋バナはドロドロな話に変貌を遂げた。
『○○彼女いるらしいよ』
『何か○○って重すぎて嫌』
『○○って誰でもよさそう』
何があった?2,3分の間に何があった?
愚痴大会が始まった。
わたしは目を閉じて、窓ガラスにもたれ掛かった。
中学生は恋多き年頃だろうけど、怖いなあ。
重いとしてもそれだけ好きって事じゃないの?
他の子と話してるときに見てくるのは、つまりそういう事じゃないの?
【恋】してるって事じゃないの?
…みんなのしている【恋】は所謂【遊び】的なものなのか?
失敬だとは思うけど、多分そんな感じなんじゃないかな。
よし。決めた。
わたしは【本気の恋】をする。
重いと思われても良いからとにかく自分で掴み取る。
誰でもいいとかよくないとかじゃなくて、やってみる。
もうすぐ卒業なんだから、今のうちに自分磨きをしなきゃ。
頑張るぞ!!
…とはいかないわたしなのでした。
「今日って何日だっけ」
そう思うと俺はいつもスマホを見る。
一目で今日が何日だか、何曜だか分かる。
便利な世の中になったな、と感心してしまう。
そんなとき、母さんから荷物が届いた。
多分食品とか衣類とか、その辺りだろうと思った。
俺は注意深く段ボールの中身を開封する。
小さなメモが添えられていた。
『あんたの大好きなものを送りました。』
俺の好きなもの?心当たりが無かった。
母さんとは2,3年くらい会って無い。
好きなものなんてコロコロ変わるのに、
現時点での俺の好きなものが分かるなんて、母さんは凄いな。
俺は半ば疑っていたが、中身のラッピングを解いた。
カレンダーだった。
誰の家にもあるであろう、あのタイプだ。
別に俺はカレンダーに特別な感情は抱いていない。
母さんの気持ちを考えると、申し訳なくなった。
俺は壁のフックにカレンダーを引っ掛けてみた。
実家のような安心感がある。
パラパラ中をめくってみる。
よくあるタイプだ。
段ボールを部屋の端に寄せた。
俺は歯を磨き、布団を敷いて眠った。
俺はいつの間にか、日付けを確認するときは
母さんの送ってくれたあのカレンダーを見るようになっていた。
俺は7月のページをミシン目に沿って破った。
8月になったと実感した。
すると、カレンダーに書き込みがあることに気付いた。
不器用な字で、『父さんの誕生日』と書いてあった。
父さん本人が書いたんだとすぐに分かった。
「はは~ん?」
俺は腕を組みながらそう呟いていた。
部屋には俺しかいないけど、何だか父さんと母さんがいるようで
嬉しかった。
母さんの誕生日は12月だったから、
きっと12月のページには『母さんの誕生日』と書いてあるんだろう。
俺は思い出した。
小さい頃、俺はカレンダーをめくる係をしていた。
自分でも忘れていたのに、母さんは覚えていてくれた。
多分、あの時のような情熱を取り戻して欲しいという
母さんなりのメッセージなのかもしれない。
考えすぎだが、そう受け取っておきたい。
「また明日」
去り際にあの人は言った。
優しげな、温かな、包み込むような笑顔で、
私に言った。
あの人の乗る電車が駅を発つ。
私は手を振り続ける。
電車が見えなくなるまで、
あの人が見えなくなるまで。
駅のホームに残った私は喪失感を胸に家路を急いだ。
もう少しだけ、さっきまであの人と居たこの場所に残りたい。
もう少しだけ、あの思い出に浸っていたい。
けど、余計に哀しくて虚しくなるのは嫌だった。
だから、私は帰らざるを得ない。
足が止まっていた。
ここに居てはいけないのに。
帰らなくてはいけないのに。
また明日会えるのに、
あの人の事を考えるのを止められない。
目頭は酷く熱くなるばかりで、
もうどうすることも出来ないほどに苦しい。
たとえ我が家に帰ったとしても、きっとこの感覚は終わらないだろう。