落下
階段を上がる、悠長に上に向かうが心はどこか焦燥的だ
屋上の少し錆びた扉を開けた
フェンスもない屋上の端にいる彼を見つめる
言葉を発さずに彼に近づく
彼はこちらをチラと見るもすぐに前を向く
彼の横に座る
2人の間には言葉は無い
少しすると彼が口を開いた
「何しに来た」
彼は少し不機嫌そうな声だ
「別に、屋上に来たら貴方が居たそれだけ」
私も少し不機嫌そうな雰囲気で返す
「止めに来たのか?今更、」
「・・・・」
彼から発せられた"止めに来た"
やはりそうかと心の中で確認し彼が今から何をするか
その答えと事実に私の心臓の鼓動は緊張で早まり
何か言おうも言葉が見つからずになにもいえない
「止めに来たなら無駄だ、俺はもう引き返す選択肢は無い」
「君の為にも周りの為にも消えなきゃ行けないんだ」
そう言う彼は口数が多くなったからか少し普段の彼に戻った気がした
「そんな事はない、貴方は決して消えて良い人ではない
私が保証するわ」
「だから戻りましょうまたやり直せば大丈夫だから」
どうにか彼の考えを変える為懸命に口を動かす
「誰がどう言おうと私は貴方の隣に居るわ」
彼を1人にはさせないそう強い意思を彼に伝える
「それだと君が不幸になるダメだ」
「俺さえたった1人消えれば良いんだそれで充分なんだ」
「君みたいな優秀な人が無能な俺の事を気にかけるのは勿体無い」
「それでも私は貴方が居ないのは嫌だ」
「ダメだ俺はもう疲れたんだ君は俺の事を忘れて生きろ」
そう言うと彼は立ち上がりこちらを見る
その表情は陰惨な表情と同時にどこか覚悟の決まった表情だ
私は一瞬でこの後の事を予測して彼に手を伸ばす
彼の胸元に飛び込むと彼は驚いた表情をする
そして私達は浮遊感を感じ風を切る轟音に包まれる
「なんで、」
「言ったでしょ貴方の隣に居るって」
「・・・・」
「俺を恨むか?」
「恨むならこんな事しないわよ」
彼が私の身体を抱く力が少し強くなる
幸福感が体を満たし私も抱き返す
彼は私を包み込む様に抱く
わずが数秒だった最低な場面の最高な瞬間
私達は幸福と共に落下する
お互いを強く抱きしめ合う幸福が落ちない様に
強く強く強く抱く
「今まさに人生の岐路に立っているだろう」
そんな事を何年前から考えているが怠惰な性格が邪魔をし
行動は何一つとしてしていない。
頭では分かっている何か変えなければ、
しかし私は今ある物を捨てる勇気も這い上がる力もないのだ
学生時代の夢を追いかけて尖っていた性格は見る影も無い
牙を抜かれて今はひたすら人として生きる平凡な人生だ
安定を手放し賭けに興じる程もう狂ってはいられない
だが夢に走り苦しいながらも生きる彼らを見てしまった
私には眩し過ぎた、
もう一度夢を追っていた楽しい時期に戻りたいそんな
考えが私を苦しめる今の生活を手放すのは更に苦しいから
そんな焦燥感に駆られながら今日も筆を取る
創作の世界では眩しく生きていたいものだ
梅雨と初夏の狭間、湿った大気を鬱陶しく思う
疲弊した身体と精神に余分負担をかけてくるこの時期は
とても嫌いだ
寝て起きれば雨の中労働へ向かうそれの繰り返しだ
労働で日々磨耗する自分を毎日変わらない形で待つのは
この7畳の狭い部屋だ
唯一私を受け入れてくれる私だけの場所
大抵は部屋が多く広い家を望む人が多いが
孤独と空虚で命を消費する私にはこの狭さが丁度良い
物理的にも心的にも近い距離感を感じるからだ
何も無い私だからこの狭い部屋に想いを詰め込み
私と対等な狭さ重い情に染め上げる
そうする事で孤独な私は孤独では無くなる。
沢山のぬいぐるみなどあまり実用的で無いものが多いせいで
窮屈だがそれで良い、
狭いだけで温もりを感じるから。
今日もそんな無機質な心の暖かみを感じるように
狭い寝床で就寝する
この部屋で明日も変わる事ない日常を迎えるのだ。
そして、この帰る場所で1人温もりを感じる
この狭い部屋で
学生時代、あの頃の私はひたすらに稚拙だった
学を捨てた事に後悔している。
今は只の二酸化炭素製造機だ(80%は窒素らしい)
だが、こうして小説を書く事に喜びを感じる事はあの頃からしたらとても想像出来ない事象だろう
昔を後悔しても時間は酷で毎日細胞を入れ替えながら体だけ進化しそれと同時に退化も進む
その事を思うと非常に憂鬱だが筆を置く事はしない
暖かい青春も辛い今の孤独も背負い
過去を後悔し未来を憂おうともそれを糧とし筆を走らせる
私はもう一度あの頃の活発を取り戻し今の知性を持って
世の中に参上しようと思う
この題が次出た時は私は今の様を懐かしみながら
酒を煽り筆を取り続けてる事だろう。