「あれ、ない...?」
ポケットを叩いても埃が出てくるのみ。
「...どうしたの?忘れ物?」
「い、いや...なんでもないよ...!」
ははは...と乾いた笑いがその場の空気と一緒に溶け込む。本来なら、この手には彼女へのプレゼントがあるはずだが、その代わりに汗がただ握られている。
なんてこった、無くしてしまったのか...!?
間違いなく家にはないはず。鍵と共にポケットにプレゼントのキーホルダーを入れた。
断片的な記憶を遡っていく。結果、一つの仮説を生み出した。
もしかしてスられたのでは!?
あいにく鍵もない!ああ最悪だ。こんなこと彼女に知られたら幻滅されてしまう!だと言っても正直に言わないのも失礼だ。何せ鍵が無いのだから。
...腹を括ろう。言葉を紡ぎ、なかなか開かない口を無理にでも開けて音にするのだ。
「あ、あの...えー、あー......あの、さ」
「ん?あー、はいはいどうぞ。」
彼女がショルダーバッグを漁り、俺の手に乗せてきたのは鍵とキーホルダーだった。
「え?どうして...!?」
「ふふ、だってあなたその上着のポケットに穴があるのに入れるんだもん。そりゃ落ちるよね。」
「ずっと知ってたのかよ!」
「ごめんね、いつ気づくのかなって。というか昨日そのこと言おうと思ったけど、寝るの早かったから言い忘れちゃって。私こそごめんね。」
「...っはあー、本当に良かった...。」
心の底からの安堵の息を吐く。昨日からのすれ違いによる事故だったのか。
心臓に悪い...。ただ、失くしていなくて良かった。今はこの事実に安心していよう。
「あ!化粧道具入れるポーチがない!?」
後日彼女のポーチ探しが始まるとは思わなかったが...。
2024/10/19 #すれ違い
ほっと一息。
いつもより自分を大事にする夜。
映画を見て泣いて、ココアの優しい甘さに舌鼓。ベッドに転がりスマホをいじる。お菓子も少しつまんじゃおう。カロリーとか今だけは忘れて。
あくびを一つ。目を擦り、きちんと歯を磨いたら天井と挨拶。静かに呼吸を繰り返す。
うん、明日も頑張れそう。
2024/10/08 #束の間の休息
子供達が帰った後、ブランコが微かに揺れる。ブランコに腰掛け、たそがれているのはまだ若いのに顔がやつれているスーツの男性。
はあ、と大きな溜息を吐きそのまま視線を地面に向けている。
「どうしたの?」
と声をかけた。男性は思った以上に業務が忙しく、つまらないもので希望を見出せないらしい。可哀想に。
「私が助けてあげるよ。お兄さん。」
歳をとってしまうからいけないんだよね?任せて。
お兄さんの大きな手をとって導いてあげる。今は私の時間。逢魔が時、黄昏とも言うんだっけ。...詳しいことはどうでもいいか。
「お兄さんの味は悪くはなかったよ」
2024/10/18 #たそがれ
きっと明日も想いを馳せる。
2024/09/30 #きっと明日も
ネオン街には蝶がいる。その蝶たちは自身を売り、自ら標本になる。
ビルの最上階から夜の街を眺める。こんなにも見てくれは美しいのに、少し傷がつけばそこからどれだけの膿が溢れるのだろうか。どんなに美しいものも化けの皮を被ることで、本来の醜さを隠すのだ。
人間も顔を剥げばどんな醜悪なものが見れるのだろう。
好奇心を満たすため今日も美しい夜景に紛れ、自身の手を汚く染めていく。所詮人間そんなものさ。
2024/10/18 #夜景